大好きだった人-14
あたしの言葉に不意を突かれて、塁は組んでいた腕を解くと、前髪をしきりに触り始めた。
それを刺すような視線でじっと見ていると、やがて彼は観念したかのように小さく息を吐いた。
「知ってたのか」
「あたし、見たんだ。
レンタルビデオ屋でかっわいい女の子と仲良さげに歩いてる所。
モロに塁のタイプだし、絶対彼女だって思ってた」
あたしの淡々と吐く言葉を、彼は黙って聞いていた。
「でも付き合っているくせに、あたしを誘ってきたり、今日みたいに“やり直したい”だなんて、塁らしくないじゃん?
その娘とうまくいってないの? それとも好き放題にできる都合のいい女を手放すのが惜しくなった?」
「玲香……」
矢継ぎ早に質問攻めするあたしに、彼はたじろぎながらあたしの名前を呼んだ。
自分の立場を言葉にすると、いかに自分のしてきたことがズルくて惨めなものだってのがよく身に染みる。
好きだからってなんでもコイツの言いなりになって、ただの性欲処理みたいに扱われて。
待ち望んでいた言葉をもらった時には、すでに心は久留米さんでいっぱいになって。
でも、久留米さんの心には結局入れなくて、それが今でも苦しくて。
どうしてあたしはこうもタイミングが悪いんだろう。