大好きだった人-12
呆気に取られた顔しかできなかった。
それほど、塁の言った一言が絵空事のように聞こえたからだ。
「……何冗談言ってんのよ」
「冗談じゃねえよ。
まあ、生理って肩すかし食らったから、恥ずかしくなって飯に変更したんだけどさ」
「塁……」
「なあ、玲香?
オレ達やり直さねえ?」
笑いながらそう言った彼の冗談めいた口調。
でも、これは冗談なんかで言ってるんじゃないと、あたしにはわかっていた。
別れてからのコイツは、ひたすらヨリを戻したがっていたあたしに、決して期待させるような言葉とか、甘い言葉は囁いてくれることはなかった。
それは、決してヨリは戻さないと決めた塁のルールだったんだと思う。
そもそもセフレという関係を提案してきたのだって、そう言えばあたしが幻滅して離れていくのを見越していたからであって。
誤算だったのは、あたしがそれを受け入れてしまったこと。
だから塁は、あたしの心が離れていくように、辱しめるような抱き方ばかりをしていたんだ。
愛のない、ただの本能のままの快楽だけを楽しみながら。
だから、塁が自分から“やり直さねえ?”なんて言うのは、相当の覚悟があってのことに違いないのだ。