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鳳学院の秘密
【学園物 官能小説】

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第6章 狂宴-2

 やがてタキシードの男子生徒が私の存在に気付くと、ざわめきがさざ波のように広がり、幾つもの視線が向けられる。衆目を集めるのには慣れているが、今回のそれは、九条直哉の私的なパーティに綾小路家の者が姿を現したからなのか、それとも私の前後を固める、物々しいボディガードを見てなのか。
 危険なパーティに赴くにあたり、理事長は西園寺グループ警備部の中でも、最精鋭の二名を警護に寄越してきた。いずれも要人警護のプロフェッショナルで、前を歩く精悍な男性は、警視庁でSPを務めた経歴の持ち主。後衛を務める女性も、海外で専門の訓練を受けた実力派。無駄のない身のこなしでつき従う。
 学内のパーティにボディガードなど無粋もいい所だが、備えに越したことはない。これから九条直哉に悪事の証拠を突きつけ、審判を下した暁に、彼がどんな行動に出るかわかったものではない。もっとも私の身を守るのは彼らのみならず、既に会場周辺を学院警備部の者達が包囲しており、突入の号令一下、パーティ参加者の身柄を取り押さえる手筈となっている。被害者である生徒には、多少手荒な真似をすることになるかもしれないが、学院の悪を一掃するのに手心を加えるつもりは一切なかった。
 黒服の緯丈夫が傍らにいるおかげで、社交の場に付き物の煩わしい挨拶に悩まされることもなく、私は元凶の姿を探し求めた。程なく会場のざわめきを聞きつけて、九条直哉は笑顔を称えて現れると、両手を広げ歓迎の意を表した。
 「これはようこそおいでくださいました。愚輩如きのささやかなパーティに綾小路家の方をお招きできるなど、九条家にとっても大変な名誉と存じます」
 相変わらずの好青年ぶりは健在で、深々と頭を下げ、礼を尽くす所作には非の打ちどころがない。真摯な言葉遣いに慇懃な作法、白いタキシードを上品に着こなし、爽やかな笑顔は好印象を与える。だが、それが傲慢な本性を隠す仮面であることを看破した今、まるでお芝居を見ている様な気にさせられる。
 「それにしても今宵は一段とお美しい。貴方の美しさの前には月の光さえ霞んでしまうでしょう」
 陳腐な美辞麗句にうんざりしながらも、男の視線に気づき、もう少し露出を抑えたドレスで来るべきだったと後悔する。これが普通の社交の場であれば、女性の美も交渉を有利に進めるうえでの一要因と割り切れるのに、紫のイブニングは肩や背が剥き出しで、下劣な欲情を抱かれると思うと不快な気持ちが拭えない。だが、そんな思いを表情には出さず、私は冷淡な口調で社交辞令を返す。
 「この度はお誕生日おめでとうございます。御招き、大変喜ばしく思います。綾小路家を代表して、貴君と九条家の更なる発展に期待し、御祝辞を述べさせて頂きますわ。」
 「ありがたきお言葉、身に余る光栄です。是非私共のパーティをお楽しみ頂きたく思います。ところで、綾小路様はダンスが堪能とお伺いしておりますが、御無礼でなければ場を盛り上げる興として、一曲御相手頂けませんか?」
 冷淡な応対をものともせず、彼は承諾も得ぬうちに私の手を取るべく近づいてくるが、言い知れぬ不安を覚える。幸い私が身を引くより先にボディガードが割って入り、思った以上の安堵を覚えてしまう。


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