第6章 狂宴-15
白い背中にくず折れた男を押しのけ、待ちかねていた三人目が先生の尻に飛びかかると、隣では藤堂に絞り取られた大男が情けない声で呻きだす。ステージ上の美女達は、まだまだ物足りないのか、淫猥な顔を悦びに輝かせ、男を求め乱れていた。
気がつくと、手の中で紫織の身体が小刻みに震えていた。先生達の痴態に触発され、そろそろ肉の欲求に耐えきれなくなったか。肌に触れている手から彼女の興奮が伝わってくる。いよいよ彼女の全てを手に入れる時が近づき、俺は期待に胸を高鳴らせた。
望まぬ境遇に私生児として生まれついた藤堂瀬里奈は、己の人生で悩んでいた。認知の真相は彼女にとって喜ばしいものではなかったが、それでも橘沙羅と言う友人の支えで、新たな未来を築いていけるはずだった。
社会への貢献を考え、教職の道を志した桜井先生は、尊敬に値する立派な教師だ。彼女の熱意と優しさは、多くの生徒達の支えとなってきただろう。二人の未来には希望があり、彼女達には幸せになる権利があった。
それが今、九条直哉の悪魔的意思に操られ、男達の慰み者となり果てている。そこに彼女達の意思はなく、ただ性欲を満足させるがためだけの、奴隷としての奉仕に他ならない。
純然たる怒りの感情が、今の私を支えていた。それは心を蕩かしてくる麻薬の誘惑に抗し、冷たい正気を保たせている。私はどんなことがあっても、この男に負けてはならない。この男を許してもならない。綾小路家の誇りにかけて、屈してなどならない!
「答えなさい、一体あの人達に何をしたの!」
必死の叫びは、九条に驚きの表情を浮かばせたが、それも束の間。すぐに余裕の笑みにとって代わると、無遠慮に私の隣に腰かけてくる。気持ちとは裏腹に、肩を抱き寄せられても、力の入らない身体では抗うことすらできない。男の体臭に快楽への誘惑が力を増すが、理性を奮い立たせ必死で拒もうとする。幸いそれ以上の狼藉はなかったが、男の腕から逃れることは叶わなかった。
「おい、外人女。こっちへ来るんだ」
横柄な呼びかけに、それまで茫然と立ち尽くしていた橘沙羅は、しずしずとソファの前までやってくる。私の知っている彼女はもっと生気に溢れて溌剌としていたのに、今は何だかぎこちないしおらしさを見せている。穏やかに微笑み、大人しく佇む様は、まるで綺麗な西洋人形の様。もっともそのお淑やかな態度とは裏腹に、下着に等しい黒い衣装がグラマラスな身体を強調している。
「お呼びでしょうか、直哉様」
「綾小路の姫君が、お前達の身に起きたことをお知りになりたいそうだ、答えて差し上げなさい」
彼女もまた、九条の虜となり果てたか。諾々と従う様は、まるで別人の様な印象を受ける。彼女もひとたび九条が命じれば、桜井先生達の様に慰み者とされてしまうのだろうか。そんなことをさせるわけにはいかないのに、今の私は無力だった。
「はい、‥あたしは‥先日喫茶店でお話した後、紫織様のお言いつけを守らず、直哉様の調査を続けました‥」