第6章 狂宴-12
「藤堂、それから桜井先生」
名前を呼ばれた美女達は、瞳を輝かせ一歩前に進み出る。俺の命令に従うことで、彼女達はより心地良い気分に浸れるのだ。
「そろそろ会場の盛り上がりに花を添えたい頃合いだ。あちらのステージで、御客様を喜ばせて差し上げなさい」
「はい、直哉様、喜んで」
俺の言葉が含むところを、二人は十分理解している。階下へ向かう後ろ姿を見送りながら、部屋にボディガードどもが残っていたことを思い出す。力なくソファにもたれかかった紫織は、もはや立ち上がることもままなるまい。不要になった彼等には退出を命じる。役目を終えたという点では伊集院も同様か。彼女にも楽しんでくるよう命じ、階下へと向かわせた。
バルコニーから見下ろすと、眼下ではまさに背徳の宴が繰り広げられていた。絡みあう男女がお互いの身体を貪りつくすと、今度は相手を代え、また行為に励みだす。尽きせぬ欲望に身を焦がされ、快楽の宴はますますヒートアップしていた。その為フロアの前方、一段高くなったステージに、誘惑の女神達が現れたことに気付く者はいなかった。迎賓館設立当時は現代の様にオーディオ機器が充実しておらず、ダンスの音楽は生演奏が基本であった。その楽団が演奏するステージに、清楚な白いドレスの桜井先生と、挑発的な黒いランジェリーの藤堂が進み出る。
「諸君」
主の言葉は絶対だ。俺の呼びかけにフロアの獣共は、行為の最中にもかかわらずこぞって顔をあげる。
「パーティの主催者として、君達に余興を提供しよう。皆、ステージに注目せよ。藤堂議員が隠し子、瀬里奈嬢と、魅惑の女教師、桜井香澄先生によるショーを楽しみたまえ」
スポットライトがステージ上の二人の姿を照らしだし、妖しく微笑む美女の姿を浮かび上がらせる。流れている音楽が、官能めいたアラブ風のものに変わり、会場のムードを盛り上げる。
俺はソファの後ろから紫織の肩に手を添え、ステージがよく見えるよう身を起させる。苦しげに息を荒げているが、意識はまだ保っているようで、彼女の目線はステージに立つ二人の姿に向けられている。柔らかい肌の感触を楽しみながら、白い項に口を近づけ、そっと囁きかける。
「さぁ、一緒にショーを楽しみましょう。貴方もきっと気に入りますよ」
弦楽器がかき鳴らす旋律に合わせ、妖しく腰をくねらせながら、藤堂瀬里奈はステージの前に歩み出た。挑むような視線を観客に向けたまま、自分の身体にいやらしく手を這わせる。黒いレースが絡みつくようなランジェリーの下で、はち切れんばかりのバストが震え、女達からは羨望の眼差しを、そして男達からは欲望の眼差しを浴びる。
抱いてみてわかったが、藤堂はセックスで挑戦的に迫ってくるタイプの女だ。教育する前は生意気で可愛げもなく、おまけに処女でもなかったが、豊満な肉体を武器に、情熱的に迫ってくる様は抱きごたえがある。観客に近いところまで進み出て、たっぷり肉体の魅力を見せつけると突如身をひるがえし、楚々と歩み出てきた桜井先生の後ろに回る。