第6章 狂宴-11
‥いや、まだだ。
滾る思いをぐっと堪え、欲望に歯止めをかける。彼女はまだ快楽の誘惑に屈してない。もっと官能をそそらせ、心の内に秘めている性への欲望をさらけ出させるのだ。いかに紫織さんと言えど、麻薬で蕩かされた頭で淫猥なセックスや媚態を見せつけられれば、女を意識せずにはいられまい。そのためにも、せいぜいこいつらには役立ってもらうとするか。
生贄となる女共を迎え、俺は口が笑いの形に歪むのを覚えた。かつて売春倶楽部の存在に気付き、その情報を紫織さんに漏らした連中も、今や従順な下僕である。もうこいつらは、生意気な口を叩くことも盾突くこともない。それどころか、調べていた売春倶楽部で自分達が男の相手をすることになっても、喜んで受け入れる娼婦と化したのだ。
大柄で肉感的なでか女は、豊満なバストとたっぷり肉の乗ったヒップをいやらしい黒のランジェリーで包み、スタイルの良い肢体を余すところなくさらしている。対照的に小柄な金髪女も、男好きしそうなグラマーな身体つきで、谷間を見せつけるボンテージ風のビスチェと、太ももが剥き出しの短いスカートは小悪魔的な魅力を醸している。フルヌードの伊集院より、こういう扇情的な姿の方が女心をそそるのか。それとも、昨日まで仲間だった報道部が、こんな姿で現れたことがショックだったのか。息を荒げる紫織さんは、混乱と動揺の極地にあった。俺は頬を赤らめ、尊敬と恍惚の入り混じった目で熱く見つめてくる女達に優しく訊ねてみた。
「お前達は私の動向を調べ、真相にたどり着いたようだが、それでどう思った?正直に言ってみろ」
「はい、直哉様の素晴らしい御志を知り、お仕えしたいと思いました」
やや上ずった口調で、でか女、藤堂が答える。
「あたしたち、直哉様の為なら、どんなことでもお手伝いしたいと思ってます」
嬉しそうに顔を綻ばせ、金髪女、橘は嬉々とした表情を浮かべる。
まったく、最初からこんなに素直なら、こいつらももう少し優しく可愛がってやったと言うのに。ムチムチの身体に視線を這わせ、それでも紳士の口調は崩さず、紫織さんに言い聞かせる。
「いかがです?かつて彼女達も貴方の様に私を誤解していましたが、今では理解を示し、喜んで協力してくれますよ」
「‥な、何を馬鹿‥な‥、‥うっ、んぅ‥」
おやおや、せっかく忠告したと言うのに、興奮したせいで薬が回ったか。パラダイス・ロストがいよいよ彼女の心を蝕み始めたようだ。今頃薬が引き起こす快楽の波が、陶酔の世界に引きずり込もうとしているはずなのに、まだ意識を保っているのは、綾小路家の誇りがなせる業か。常人ならとっくに忘我状態になる量を摂取しているのに、気丈にも彼女は抵抗を続けている。
だが、それこそ楽しみが増えると言うもの。どれだけ心が強かろうと、絶え間なくさらされる快楽の波に、いつまでも耐えられるはずがない。いずれ彼女の心が屈し、快楽に身を委ねた時こそ綾小路の姫君を、いや、紫織を俺のものにする時だ。
どれ、ひとつ彼女がその気になってもらうためにも、特別ショーを御目にかけるとしよう。