結び-1
「かあさま…ねむい…」
「もう少しね、やえ」
最愛の蜘蛛娘を亡くし、あきは以前のようには快活で無くなった。
若くして、血生臭い惨事を体験したからであろう。
空き家だった飯場小屋は、累々と死体が転がり、
血糊が天井にまで飛び、
中には破裂して、顔かたちの分からぬ物もあった。
家の外には、引き千切られた犬の死骸が四散し、
まるで虎でも暴れ回ったかのようだったという。
最愛の人が、自分を護る為に獣となって戦い、
目の前で刃を受けて、平気な方がどうかしている。
やえは見る間に大きくなる。
獣の血を引くだけあって、人に倍する程育つのが早い。
やえは、母親の蜘蛛娘と違って良く笑う。
子供の笑い顔というものは、
廻りをも幸せな気持ちにしてくれるものだ。
そんなやえを、あきは片時も手離さない。
家人としても、あきの精神の平衡を保っているのが、
やえなのは痛い程分かる。
あきは、やえを真綿で包む様にして優しく扱う。
(やえはすぐに大きくなる。そうしたら私を愛して貰おう。
私の精を吸って貰おう。
大丈夫、あの人と同じ匂いがするもの。
ああ、あなた様)
あきは、眠りに落ちて行く、やえのぷっくりとした割れ目に、
唇をひたと押し付けるのであった。
完