拉致-1
蜘蛛娘は、自分の娘と、あきと暮らしていた。
あきの両親が、
遁世したら住まう筈の別邸を、
恩人の蜘蛛娘となら、と供与してくれたのだ。
ゆったりとした敷地の、静かな別荘だ。
蜘蛛娘は住居の廻りに糸を巡らし、
鳴子を提げて警戒を怠らない。
蜘蛛娘は何事に於いても用心深い。
自分の娘と、心から信用できる人と、落ち着いて暮らしていた。
蜘蛛娘は、赤子が何からどう産まれた、などと説明しない。
嫌悪されるのは分かり切っているからだ。
世の誰よりも長く生きて来た蜘蛛娘は、
真似こそしないが、人の心は知悉しているのだ。
あきの方も、無粋な詮索などしない。
自分の側に居てくれる、其れが大事なのだ。
あきは赤子に、やえ、など名前をつけて、
自分の子のように世話をしている。
蜘蛛娘は、と言うと、あなたで良いと素っ気ない。
あきは、
若い男達の与太話で、真っ先に口に上るほど綺麗に成った。
看板娘を見初めて、方々から見合いの話など来るが、
命を救ってくれた蜘蛛娘といるのが、私の仕合わせなのだ、
と言われれば、親も致し方無い。
実家の商売の方は、兄たちが上手くやっていて、
妹の我儘を聞いて好きなようにさせてくれる。
家人の人柄もあってか、店は流行っていた。
昼は、店に手伝いに出たり、
蜘蛛娘に読み書き算術を教えたりしていた。
夜は二人、誰憚ることなく、番う。
あきは蜘蛛娘の手で、少女から女にされようとしていた。
あきは町娘で、色が白く、手脚も細い。
蜘蛛娘が今迄抱いて来た、
徒花や、泥の付いた牛蒡の様な女達とは違うのだ。
若いあきは、蜘蛛娘の熟達した性技に溺れる。
蜘蛛娘の顔に跨がり、
長い舌で身体の奥をまさぐらせ、精を吸わせながら、
年少の蜘蛛娘の陰裂を拡げて、懸命に舌を使う。
蜘蛛娘が口を寄せ易い様にと、陰部は綺麗に剃り上げてある。
求めに応じて、尻の穴まで許してしまう。
あきが気を遣る時、
蜘蛛娘はあきの尻に吸い付き、
長い舌で尻の中を、ぬらぬらとやる。
あきは催してしまい、寸止めをくらう。
「あぐっ、ぎっ」
糸が四肢を緊縛し、柔肌に食い込む。
白い肌に脂汗を噴き出し、乳首を硬く勃たせる。
淫部はしとどに濡れ露を垂らし、牝の匂いを強くする。
身動きの取れぬ身体を蜿蜿と襲う、
不潔な快感にあきの肌は粟立ち、
ばね仕掛けの様に、幾度も幾度も肢体を捩る。
然してあきは蕩けて陶然と成り、
自分の尻の奥を掻き回した、汚れた蜘蛛娘の舌を、
喜悦して喉を拡げて受け入れる。
最愛の相手に、甘露となった己の精を捧げるのだ。
蜘蛛娘は酔い痴れ、吸い尽くしたい衝動を辛うじて堪える。
あきは穢い口づけを交わしながら、
自分が蜘蛛娘の生き餌である悦びに浸る。
あきは生命を賭して蜘蛛娘を愛するのだ。
その様なきわどい事をしているから、
蜘蛛娘に詫びつつ、
尻を押さえて厠に駆け込むことになる。
あきは蜘蛛娘によって、
朝露に濡れた蕾を、くじり開かれようとしている。
夜中に、仕掛けた鳴子が騒ぐ。
「あき!やえと其処におれ!」
蜘蛛娘は閨から庭に飛び出し、鳴子の鳴った方へ急ぐ。
今度は逆に、家屋の方から、あきの叫び声が上がる。
「謀られた!」
座敷から多数の犬が飛び出してきて追い立てられ、
蜘蛛娘は屋根の上に追い詰められてしまった。
地面には犬どもが、歯を剥いて吠え立てている。
一匹や二匹ならともかく、こう数が多くては手が出せない。
自分には鋭い牙や、鉤爪は無いのだ。
蜘蛛娘は歯噛みするしか無かった。
家から男どもが出て来る。
「前回はお前の所為で、上手くいかなかったからな。
俺達が逃げ切る迄、そこにいるんだ。
こいつらは猟犬だ、熊とでも戦うぜ」
今飛び出して行っても、
自分が犬どもに咬み殺されるだけで、二人は助けられない。
悪党どもは書状を放り投げ、
あきとやえを攫って走り去ってしまった。
蜘蛛娘は犬どもの隙をみて降りようとするが、
必ず見つかってしまう。
そのうちに、犬どもは何かの合図を聞いたかのように、
一斉に駆け出して消えてしまった。
仕様なく手紙を持って店の方へ報告に行き、
事の顛末を家人に話した。
「金を三日後までに用意しろと書いてある。
届け出たり、
金の受け渡しで、蜘蛛娘を嗅ぎ付けたら、人質の命は無いとある。
汚ねえ連中だぜ」
「ううむ…」
「私らは金を集めます」
(金を渡しても二人は返ってこない。
二人の命を盾に、何度も金をせしめる積りだ。
人とはそういうものだ)
つづく