余韻-3
「ごめんね、あたし最中におじさんのこと、呼び捨てにしちゃって……」
「構わんよ。かえって冷静に『ケンジおじー』なんて呼ばれたら、冷めちまう」
「そうだね」真雪は笑った。「ほんとにありがとう。最高の癒しだった」
「俺もだ。真雪」
「ケンジおじに身体の奥に出してもらったら、なんだか、」真雪は顔を上げてケンジの目を見つめた。「龍のことが今までよりももっと好きになっちゃった」
「なんでそうなる?」
「貴男の息子への愛情そのものをあたしも手に入れた気がして……。それに、」
真雪は悪戯っぽく笑った。「ケンジおじが中にいる時、あたし龍のものが入ってるのか、って思ってた」
「え? な、なんだよそれ」
「龍のものとケンジおじの、すっごく似てる。っていうか、ほとんど同じ感触」
「そ、そうなのか?」
「うん。さっき咥えたときも思った。カタチや大きさもそうだけど、温かさも同じ。それに中に出すときの衝撃が、もうびっくりするぐらい同じだった」
「衝撃?」
「うん。力強く噴き出す衝撃だよ。それにイく時の腕の力の込め方も、呻き声も同じ。苦しそうな表情も。あたし、途中から龍に抱かれてるのか、って錯覚してたよ」
「そうなんだな……」ケンジは照れたように頭を掻いた。「やっぱり親子なんだな」
真雪はケンジの鼻を人差し指でつついた。
「ケンジおじの素敵な染色体が、確実に次世代に受け継がれてるってことが、あたしよくわかったよ」真雪は微笑んだ。「身をもって」
「大げさだぞ、真雪」ケンジも真雪の鼻の頭を人差し指で軽くつついた。
「健吾もきっとこんな素敵な紳士になるんだね。楽しみ」
「いつの話だよ」
「ねえ、ケンジおじ」
「うん?」
「キスして」
「いいよ」
少し恥ずかしげにケンジは微笑み、真雪を抱き直して静かで熱く深いキスをした。
しばらくしてケンジは口を離して真雪の目を見つめた。
「ケンジおじのキスは、本当に最高。龍もかなわない。悔しいけど」
「そうか?」
「龍にも教えておいてよ」
「そうだな。そのうちな」ケンジは悪戯っぽく笑った。
真雪はケンジの背中に腕を回して、その逞しい胸に顔を埋めた。
――翌週
真雪が毎月定期的に訪れる酪農研究所のロビーで、ロマンスグレーの髪をきちんと整えた所長が温厚な微笑みをたたえて彼女を出迎えた。
「やあ、シンプソンさん、いつも来て頂き、感謝します」
その初老の男性は右手を思わず出そうとしてすぐに引っ込めた。
真雪は左肩のバッグをかけ直し、にっこり微笑みながら彼に近づいて、すっと右手を差し出した。
所長は意外そうな顔をして一度真雪の顔を見た後、それでもすぐに真雪の手を握り返した。
「こちらこそ、所長さんにはいろいろとお気遣い頂いて」そして真雪はまた柔らかく微笑んだ。
所長は声のトーンを上げた。「暑かったでしょう。どうぞ、こちらに。冷たいカフェオレをごちそうしましょう」
「恐れ入ります」
真雪は小さく頭を下げて彼の後をついて歩いた。
2014,1,3(2014,1,20) 脱稿
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