もう一つのクライマックス-1
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「ケンジおじ、何度もお願いして申し訳ないんだけど、」
ベッドに仰向けになった真雪が、横にいるケンジに顔を向けた。
「どうした? 真雪」
「貴男はいやだ、って言うかもしれないけど、あたし、どうしてもやって欲しいことがあるんだ」
真雪が自分を見つめる瞳の深い色にたじろいで、ケンジは思わず息をのんだ。
「おまえが……そう思っていることを、俺は拒絶できない。そんな気がする」
「ああ……」真雪はため息をついて目を閉じた。「あの時と同じ」
「あの時?」
「龍に、あたしの口に出して、ってお願いする前、龍も同じこと言ってくれた。あたし、嬉しい」真雪は涙ぐんでケンジを見た。「ケンジおじに抱かれることを決心して、ほんとに良かった」
「そうか……。龍と同じこと……」ケンジは真雪の髪をそっと撫でながら、頬を伝った涙を親指で拭った。「それで、お願いって、何なんだ?」
「いよいよクライマックスだけど、ケンジおじ、あたしの中に直接出して。できたら二回」
「ええっ!」ケンジは驚いて真雪の顔を見た。「お、おまえ、龍以外のオトコから中に出されるの、絶対にいやだ、って言ってたじゃないか」
「龍とも話し合った結果なんだ、これ。はじめからケンジおじのものを、あたし取り込むつもりだった」
「ど、どうしてそんな……。しかも二回も……」
「そうでないと、板東とのあの忌まわしい出来事が、クリアできない」
「納得するように言ってくれないか、真雪」
「つまりね、」真雪は身体をケンジに向けた。「板東に二度も中出しされたあたしは、妊娠こそしなかったけど、精神的にかなり参っちゃって、自分の中にいつまでもあの男のものが残っている気がしてた」
「でも、龍がそれを癒してくれたんじゃないのか?」
「うん。龍はそれから前以上にいっぱいあたしを愛してくれて、いっぱい中にもそのエキスを注ぎ込んでくれて、彼の愛情を十分受け取ることができた。そのお陰で二人の人生最高の宝物も授かった」
「それでいいじゃないか。まだ何か気がかりなことが?」
「龍のエキスで中和できないものが、ほんの少し、まだあたしの中に残ってる。それは年上の男の人への拒絶感、というか、こわばりというか……」
「聞いた。龍にそのこと」
「そうなんだ。だからその残りの1lを完全になくすために、ケンジおじが出してくれるものが必要なの」
「真雪……」
「ごめんね、理屈っぽくて。何言ってるかわかんなかったよね?」
「いや、おまえや龍の気持ち、俺、感じるよ。わかるとかわからないとかじゃなくて、感じる」
「ケンジおじ……」
真雪はケンジの逞しい胸に、そっと指を這わせた。「あたしね、今でもどうしてそんなことしたのか、わからないんだけど、」
「うん」ケンジは真雪に身体を向けた。
「板東との最初の夜は、酔ってて判断力が鈍ってたから、あんなことになったのはお酒のせいにもできる。でも、」
真雪はケンジの胸から手を離し、自分の胸に移した。
「その次の夜も板東に誘われて抱かれた。お酒なんか飲んでなかったのに……」
「真雪がその時、そいつに何かを求めていたってことか?」
「あたし、さっきも言ったけど、身体を癒されたかったんだと思う」
「気持ちは?」
「どうかな……。もしかしたら気持ちも癒されることを期待してたかも」
「龍のこと……思い出さなかったのか?」
真雪は目を閉じた。
「自分を追い込んでた気がする。龍のことは思い出したくなかった、っていうか、その時彼のことを思い出しちゃいけない、みたいな気持ちになってた」
「じゃあ、その時も結局まだ判断力が鈍っていた、ってことじゃないか。別に酒に酔ってなくても、人間そんな風になってしまうことはあるよ」
真雪は瞼を開いてケンジの目を見た。
「だから余計にあたし、自分のことが許せなかったんだ」
ケンジはだまってうなずいた。
「前の晩に、期待してた癒やしをもらえなかったから、その晩はもしかしたら、って思ってたような気がする」
「でも結局だめだったんだろ?」
「うん。その時は、あたし板東が登り詰める時、拒絶して、中に出さないで、って身体を押しやったけど、あいつは構わずあたしの奥まで押し込んで果てた」
「拒絶しようっていう気になってたのなら、大丈夫。気持ちまでは持って行かれてなかった、ってことだよ」
「そうだね」