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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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ルージュ×ブランシュ-4

 ***
 
 一方。ストシェーダのゼノ城にて。

 王子妃となったカティヤは、部屋に届けられた大量の菓子を前に、途方にくれていた。
 朝から次々に運び込まれた菓子の山は、店を丸ごと買い占めたのではないかと思うような量と種類だ。その傍らにはドレスが数着と宝飾品や花束も置かれている。
 無言でそれらを眺めていると、緋色の髪をした黒衣王子が上機嫌でやって来た。

「ブランシュ・ディのお返しは届いたようだな」

「アレシュさま……去年も申しあげましたが、こんなに頂くわけには行きません!」

 カティヤはフルフルと震えて訴える。
 去年のルージュ・ディには、アレシュがお気に入りだという店のケーキを贈ったのだ。
 その店のルージュ・ディ用の限定ケーキは大人気で、朝早くから並ばなくては、開店と同時に売り切れてしまうそうだ。
 王子妃という立場から店に注文すれば簡単に手に入るだろうが、それでは不公平な気がした。
 カティヤは店員や他の客にばれないよう変装し、お忍びで三時間並んで購入したのだ。
 人気スイーツ店で繰り広げられた女の戦いは、戦場さながらの凄まじさで驚いたが、そんな苦労もアレシュに喜んでもらえるなら、大したことではなかった。

 しかし一ヵ月後。
 山のようなお返しを贈られて、仰天したのだ。

「この国では、その嬉しさに比例する量と価格のお返しをするのだから、妥当な量だ」

 胸を張って去年と同じく言い切る夫に、カティヤはこめかみを押さえた。

「今年、私が贈りましたのは、クッキー数枚だったではありませんか。それほど上等な品ではありませんでしたし……」

 贈り物はアレシュの私的財産から出たとはいえ、万倍返しは心苦しい。
 そこで去年の失敗を踏まえ、ささやか過ぎるほどの菓子にしたのだ。
 ……なのに、去年より増えているのは、どういうことだろう?
 困惑する妻を前に、魔眼王子はまるでお見通しだというように、ニヤリと笑う。

「どこの有名店の菓子より、カティヤの手作りクッキーは価値があるぞ」

「っ!! ぞ、存じていらっしゃったのですか……」

 コックに頼み込んで厨房を遣わせてもらい、アレシュに内緒でクッキーを作ったのだ。 
 無名店のように見せかけるために、ラッピングはきちんとしたのだが、バレていたらしい。
 飛竜の里で暮らしていた頃は、義母を手伝い菓子や料理を作ったが、ナハトと竜騎士を目指すようになってからは、その時間も段々と減った。
 包丁を槍にもちかえ、エプロンの代わりに軍服を来て、竜騎士団に入ってからは菓子作りなどする機会もなかった。
 王子妃になってからは、また他の勉強や公務に忙しかった。
 だから、味はまぁまぁだったが、随分と不恰好なクッキーになってしまった。

「最高に上手かった。また作ってくれ」

「え、ええ……」

 照れくさかったが、カティヤは頷いた。
 そして、傍らに詰まれたお菓子の山にチラリと視線を走らせ、きっぱりと宣言した。

「……ですが、これは傷んでしまわないうちに、今年も皆さんに分けさせていただきます」

 どう考えても、カティヤ一人で食べられる量ではない。
 アレシュもそれくらい判るはずだが、この王子は妻に関すると、つい加減を突っ走ってしまう悪癖があるのだ。

「く……仕方ない……ああ、俺の愛がまた分散される……」

 ガックリと床に両膝をつき、気の毒なほど落ちこんでしまった。
 カティヤはクスリを笑い、愛しい魔眼王子を抱きしめた。
 魔眼が過剰に産んでしまった魔力が無害なものになってじんわりと流れ込んでくる。

「ご安心を。こちらは私が一人だけで頂きますから」

「……ああ」

 アレシュが嬉しそうに笑い、カティヤの腰に手を回す。
 ゼノ城の王子夫妻も、この恋人記念日に相応しい、幸せな甘い口づけを交わした。
 
 終
 


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