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鳳学院の秘密
【学園物 官能小説】

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第5章 教育-7

 昼休みの中頃までに、あたしは九条直哉の監視体制を整えていた。瀬里奈にもしおりんにも散々反対されたけど、相手が危険で非合法な連中だと言うなら、こっちだって非合法な対処をするまでよ。よもや使うことはあるまいと思いつつも、しっかり学内に持ちこんでおいたスパイグッズに、いよいよ出番が来たようね。自慢じゃないけど、こう言う機器の扱いはお手のものよ。それに、昔のバビロニアの王様も言ってたじゃない。目には目を、歯には歯を。そして非合法には非合法をって。こっちだって手段さえ選ばなければ、色々なことができちゃうんだからね。
 本当は当人に盗聴器を仕掛けるのがベストだけど、さすがにそれはリスクが大きいので、対象が立ち回りそうな先にマイクを仕掛けて回った。食堂のVIP席は普通の盗聴器で十分だけど、さっきこっそり生徒会室に行ってみたら鍵がかかっていたので、こちらは壁の向こうの音を聞きとるコンクリートマイクを設置。どちらも五百メートル先まで音声を飛ばしてくれるので、図書室を監視場所に選び、適当に持ってきた本を広げて、さも読んでるような振りをする。鞄の中にレシーバーを隠してイヤホンをつければ、傍目には本を読みながら音楽を聞いているように見えるはずだし、ここなら人目もあるからいきなり襲われたりすることもないでしょう。それに、万一の時の備えもあった。
 あたしはスカートのポケットに忍ばせたスタンガンに手を触れ、ちょっと眉をひそめる。いざという時には躊躇なく使うつもりだけど、これには嫌な思い出があるのよね。
 父が護身用にスタンガンを渡してくれたのは、中学に入って間もない頃。本当に危険な時だけ使いなさいと言われたものの、機械好きのあたしはどうしてもこれを試してみたくてたまらなかった。そこで好奇心に耐えかねた結果、実験台に選んだのがジョゼだった。
 彼はカナダ生まれの優しくて大人しい男の子。身体つきは大きく、体重は当時のあたしくらいあったかな。黒い艶やかな毛並みのラプラドール・レトリバーは、物心ついたときから橘家にいる家族も同然の存在だった。
 あの時のジョゼの悲鳴は今も忘れられない。いつものように頭を撫でながら、スタンガンを脇腹に押し付けてスイッチを入れると、ギャインッ!!と悲痛な叫びをあげ、横倒しに倒れてしまったのだ。苦しげに息を吐き、ピクリともしなくなったので、あたしは怖くなって泣き出した覚えがある。その後母にこっぴどく怒られ、ジョゼの脇腹には火傷の痕が残り、あたしを見ると警戒するようになったのだが、それはすべて自業自得と言うもの。とにかく、これがいかに危険な代物であるかは十分心得ていた。
 それにしても、さすがに昼日中から悪事を働く気はないのか。それとも生徒会のメンバーは九条の活動とは無関係なのか。彼等の会話の中から売春とか洗脳なんて言葉は聞こえず、話すことと言えば、明晩、学院の迎賓館で開かれる九条の誕生パーティーのことばかり。怪しいわね〜、何とか潜り込めないかな。
 マナーモードにしておいたスマホが震えたのはその時だった。張り込み中に電話は止めてと言っておいたので、紫苑はメールを送ってきたみたい。短い文面を見ると思わず笑みがこぼれる。
 『ブラボーワン、ブラボーワン、こちら司令部。状況を報告せよ』
 一体何の戦争映画を見たのか。すっかり司令部きどりの紫苑に、あたしは返信のメールを送る。大したこと喋ってないとはいえ、メールなら盗聴しながらでも連絡が取り合えて便利なのよね。


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