第5章 教育-32
パンティがひき下ろされ、さらされたヒップに獣のような荒い息を感じる。恥ずかしさに顔が真っ赤になりながら、少しでも逃れようと身をよじる。そんなあたしの姿をビデオカメラを構えた紫苑が映しているのに気付き、どうしようもない絶望感に苛まれる。絶体絶命のピンチに、ヒーローが助けに来るのはお話の中だけで、あたしには何の希望も残されていなかった。
「さぁて、金髪のじゃじゃ馬の乗り心地はどうかなぁ」
冷たい指に秘部を押し広げられ、ついに心の堰が崩壊し、身も世もなく声を張り上げていた。
「い、いやああぁっ〜!」
恐怖に彩られたあたしの悲鳴は、背徳の暗闇に呑まれ、地上の誰にも届くことはなかった。
「まさか‥こんなことが‥」
絞り出すような声で呻くと、鳳学院理事長、西園寺公康氏は調査書から目を背けた。思慮深い教育者の顔には苦渋に満ちた表情が浮かんでおり、応接用のソファに身を沈めた姿は、ひどく老けこんで見える。
無理はない。学院の理事長に就任して二十余年、学院の伝統を堅実に守り続けてきたのに、突然思いもよらぬ不祥事をつきつけられたのだ。間もなく還暦を迎える理事長にとって楽しい話のはずがないし、それが綾小路家の手によるものであれば、よもや笑顔は浮かぶまい。
重い空気に包まれた夜の理事長室で、私はテーブルを挟んで座る理事長に、同情の念を禁じえなかった。だが、予定を変更して急遽学院に戻ってきたのは、一刻も早く事態を把握してもらうため。これからの対策において理事長の協力は欠かせない。
学院に着いたのは夜も遅い時間であったが、緊急の用件で会見を申し込むと、はたして綾小路家の訪問を断る者もなく、理事長室へと通された。笑顔で迎えてくれた理事長が顔色を失ったのは、それから十分も経たぬうちであった。
「‥にわかには信じがたい話ですが、これは間違いないのですか?」
一縷の望みを探るかのように、理事長はしわがれた声で尋ねてくる。視線の先には、綾小路グループの家紋入りの封筒があり、それを恨みがましく見つめていた。
「遺憾ながら事実です。書面にある通り、昨年から今年にかけて、少なくとも二キロ以上の麻薬が、PL剤と称して学院に持ち込まれています。納入は医務室の医薬品扱いに‥」
皆まで言わせず、説明を手で制し、理事長は深い溜め息を吐く。それは、逃れようのない現実と判断してのものだったか。顔色はますます優れなかったが、再び調査書を手に取り、それにしげしげと目を通す。
「‥PL顆粒は、医局用の複合感冒薬としては一般的なものですから、納入履歴を見ても違和感がなかったのでしょうな」
「ええ、ですがこれは、パラダイス・ロストと呼ばれる新型麻薬の略称で、中南米で出回っている麻薬の改良型だと思われます。現在調査を続けていますが、もしこの麻薬が九条コーポレーションで開発されたものであれば、当学院は実験場として選ばれたことになりますわね」