第5章 教育-3
「あたしらいつから綾小路の下請けになったの?大体危険だからってビビってたら、ジャーナリストなんて務まんないわ!」
「あのね、そういう問題じゃなくて、あいつらに捕まったら危ないって言ってんのよ!」
もうっ、瀬里奈ったら、ほんっと頑固なんだから!
こんなにガチで喧嘩するのは初めて会った時以来かな。ほんと、こういうところは全然変わってないわね。まぁ、荒れてた頃の瀬里奈は、どこか怒りのぶつけどころを探してるような感じだったけど、今はあたしを止める必死さだけが伝わってくる。厳しい目つきで睨んでいるけど、急に視線を逸らすと、寂しそうな表情を浮かべる。
「ねぇ沙羅、お願いだから今回だけはおとなしくしてて‥」
不安げな言い方に、ズキッと胸が痛む。瀬里奈にお願いなんて言われたのは、初めてかもしんない。
本当はあたしだってわかっている。瀬里奈の言い分が正しいことも、どれだけ心配してくれてるかも。
たしかに今学院で起きている事件は、あたし達の手に余る。洗脳とか売春とか明らかに犯罪レベルの陰謀だし、本来なら警察が介入して当然の事件よね。それにあたしは報道部の部長。皆の安全を考えるなら、ここは危険を避けるべきでしょ。
でも‥
あたしには引き下がれないだけの理由があった。
真実の報道には人を動かす力がある。それが常に良い結果を招くとは限らないが、少なくとも事実に基づいて判断した結果であるなら、人は自分の決断に責任を持つことができる。それがあたしの信じる報道の正義だ。
だから、報道に携わる者は客観的な事実を伝える義務があるし、それが誰かの都合によって歪めれたものであってはならない。可能な限り自分の目と足で真相に迫り、真実を見極めることが大事で、最初から危険だと恐れて誰かから与えられる情報に頼ってしまったら、真のジャーナリストを目指すことなど出来はしない。
もし今回安全策をとって事態の収束を待っていたら、きっと後悔すると思う。ここはあたしがジャーナリストを目指す上での大事なターニングポイント。それに、しおりんは何か目星をつけてるようだったが、九条会長がどうやって生徒を洗脳してるかは謎のまま。いかに綾小路家のご令嬢と言えど、誰にも気づかれず生徒を洗脳していった相手よ。油断していたら足元をすくわれるかもしれないじゃない。九条会長の秘密を暴き、真実を白日のもとに知らしめることが報道の使命であり、ひいてはあたし達や学院の為にもなるはずだわ。
「瀬里奈、あたし達は報道部よ。学院で大事件が起きてる時に、黙って見過ごすなんてできないわ。ここは行動を起こすべきよ」
「行動って、いったいどうすんのよ、例の秘密の撮影場所でも探す気?」
「ううん、九条の行動を徹底的にマークする。鍵はあいつが握ってるんだから、見張ってたら絶対何かつかめるわ」