第5章 教育-26
するりと紫苑の腰からスカートが滑り落ちた。いや、脱がされたと言うべきか。話をしながらも九条は凌辱の手を緩めはしない。その魔手は瀬里奈にも及び、しがみつくように胸を押し付ける彼女の腰から、巧みにスカートを剥ぎ取っていく。ピンクのパンティに包まれた紫苑の可愛いお尻と、白いショーツを張りつめさせた瀬里奈の雄大なヒップが、男の身体の上で艶めかしく揺すられ、淫らな雰囲気をさらに濃厚なものとする。まったく、何が数代に一度現れる天才よ、助平の間違いじゃないの。
「実を言うと、九条コーポレーションは既に正業で成り立ってなくてな。今我が社が会社の体を為してるのは、一重に違法取引の利益によるものだ。ひでぇ話だが、経営が立ち行かなくなった爺の代に、それまで築き上げた流通経路を使って、禁輸品の密貿易を手掛け始めたのさ。ぶちまけちまうと、税関を通せないあらゆるもの、例えば違法薬物とか軍需兵器。時には人身売買にも手をかけていたようだな」
あたしは唖然として言葉を失った。なんてことなの、これこそ表沙汰になったら、大スクープよ。そんな重大な告白をしているにもかかわらず、九条の顔からにやにや笑いが途切れることはなかった。ハーレムの王様気取りのこの馬鹿は、美女に抱きつかれて正気を失ってるんじゃないの?
「おいおい、言っておくが、俺はこの件にはかかわってないぜ。だが、某国軍部と取引のあった我が社に、彼が秘密裏に接触を持ってきたのは理解できるだろ。親父達は鼻にもかけなかったが、俺は研究理論のレポートを一目見て、彼の素晴らしさを理解したんだ。そこで親父達を説き伏せ、彼を日本に亡命させ、我が社の施設で研究の完成を助けたと言うわけさ」
「‥あんた、自分が何言ってるのかわかってんの?」
「心外だな、せっかくスクープを教えてやってると言うのに。ああ、そうだ、彼は実にすばらしい頭脳の持ち主だが、研究以外のことには恐ろしく疎い男でな。どうも東洋の若き天才が学術的な興味だけで、自分の研究を支持してくれたと本気で信じていたようだ。だから一昨年の夏、脳神経外科学の粋を極めた研究が遂に完成を迎えた時、彼は真っ先に俺に報告してくれたよ。おかげで誰にも知られず彼を、自身が発明した認識変換型教育装置の、栄えある披見第一号とすることができたというわけだ」
冷たい汗が頬を伝い、心の中に恐怖が芽生えるのをあたしははっきり感じ取った。まずい、この男は思っていたより、ずっと危険だ。こいつは自分の欲望を叶えるためなら、他者の犠牲を微塵も厭わない、最低の自己中野郎なんだわ。そんな奴が軍事レベルの洗脳装置を所有してるなんて、悪夢のような事態と言う他ないじゃない。
いつの間にか身体が震えてることに気付いても、抑えることはできなかった。そんな男に捕まっていると言うことが、あたしを底なしの恐怖へと駆り立てていた。ここから何としても逃げ出さなきゃ、目の前で男に絡みつく親友達のように、洗脳されてしまうんだ。
「彼の発明は素晴らしいぞ。何しろ教育を施された人間は、以前と何も変わらなく見えるのに、俺の言うことには何でも従うからな。彼が従順な協力者となって以降、俺は実験も兼ねて、この研究の存在を知る者を順に配下に収めて行ったのさ。ふふっ、真っ先に教育したのはうちの家族でな。要するに、今九条グループを実質的に支配しているのは、この俺と言うわけだ」