第5章 教育-2
「あら、学院に戻るのは金曜の夜なの?この日程だと大変じゃない」
申請書に目を通していた桜井先生は、帰宅予定時間の欄で目を留める。授業のない週末、無理して日本に戻るのに疑問を感じるのは無理からぬこと。当初私も日曜の夜まで外出許可を貰うつもりでいたが、今朝方届いていた一通の届け物が、予定を変更させるに至った。
「いえ、問題ありません。それに学院でも少し気になる催し物がありますので、なるべく早く戻るつもりです」
「そう、では申請通り三限目から早退扱いにしておきます。総務にも連絡しておくから、外出許可証はそちらで受け取ってね」
認可欄に押印された申請書を受け取りながら、ふと先生の顔を見て思いだす。
「そういえば、先生は確か報道部の顧問を務めてますわね」
「ええ、そうよ。彼女達の記事、なかなか面白いでしょ。でも学校新聞に載せる記事の提出は、いつも期限ぎりぎりなのよ」
そう言って困ったように肩を竦めてみせるが、顔は笑っている。何か良いことでもあったのか、今日の桜井先生は、どこか生気に溢れていた。
「実はお願いがあるのですが、私が留守の間、報道部の活動を見ていてもらえませんか?」
「報道部がどうかしたの?」
「いえ、昨日面白いインタビューを受けまして、記事の出来上がりが気になりますの」
軽い頼みと思わせるため、私は何気ない風に微笑んでみせる。先生は少し考える素振りをするも、返事は期待通りのものだった。
「‥そうね、特に急ぐ用事もないし。いいわ、部活動の見学も顧問の務めですものね」
快い返事に内心安堵を覚える。彼等の手口を見る限り、人目のある所で容易に生徒を襲ったりはしないでしょう。それに報道部の彼女達も、先生の目がある所では無茶もするまい。私は重ねてお願いしますと頼み、職員室を後にする。
その微笑みが善意によるものだと、私は最後まで疑うことはなかった。
「いい加減にしな、沙羅、今回は手を引くべきだよ!」
「瀬里奈、あんたいつからそんな臆病になったわけ?先輩のことはいいの?」
報道部の部室は今日も朝から大荒れだった。昨日、急用で実家に戻っていた紫苑の為、朝一番で部室に集まって会議を開いたのだが、今後の方針を巡ってあたしと瀬里奈の意見は真っ向から対立。はらはらした紫苑が見守る中、ほとんど喧嘩腰の言い合いを続けていた。
「いいわけないでしょ、そりゃ新城先輩のことも大事だけど、あんた達まで危険が及ぶんなら話は別よ」
「だったら尚更じゃない、はっきり真実暴いて明るみにさらせば、あいつらだって手出しできないでしょ」
「学院中誰が敵だかわからない状態で、どうすんのよ?綾小路家が動いてるのに、私達が無理することないって」