第5章 教育-17
巨体が一瞬にして目の前に迫り、あたしは無我夢中でスタンガンを突き出した。ところが、相手はまるで読んでいたかのように、ひらりと身を交わし、必殺の攻撃は空を切ってしまう。そこからの一連の動作は見事という他ないほど鮮やかだった。彼はあたしの手からスタンガンを奪いとると、体勢を崩した脇腹に押し当て、問答無用にスイッチを入れた。
「ぎゃんっ!」
脳天からつま先まですさまじい痛みが突き抜け、目の前が紫一色になる。百万ボルトの電圧は容赦なくあたしの全身を駆け巡り、筋肉の自由を、そして意識を奪っていった。気を失う寸前、あたしは自分の上げた悲鳴がジョゼそっくりと思い、紫色の闇の中に沈んでいった。
ぼんやりと映る明かりを、あたしは虚ろに眺めていた。何だろう、目は覚めてるんだけど身体が重い。倦怠感が全身を蝕み、頭の芯がぼーっとする。
夢の中を漂うような感じで、とりとめのない考えが頭をよぎる。あたし、何してんだろう‥何でこんなに疲れてるんだろう‥そう、たしか‥
突如、頭の中で紫色の光が煌めき、意識が急にはっきりする。そうだ、あたしはスタンガンを食らって、気を失ったんだ。
慌てて身を起こそうとするも、ぐったりした身体は、ほとんど動かすことができなかった。そう言えば、ジョゼも倒れてから一時間くらいはまともに動くことができなかったっけ。強烈な電気ショックにより神経系が麻痺して、回復するまで時間がかかるのだろう。
あれからどのくらい時間がたったのか。とにかく周りの状況だけでも把握しようと、動かない首を何とか巡らすと、目の前にあたしのハンディビデオが転がっていた。他の装備と一固めにされ、手を伸ばせば届きそうな所に置いてある。
その向こうに見えるのは、何か実験器具の様なものが収められた棚で、顕微鏡とか試験管、他にも用途のわからない機器が並べられている。さらに部屋の奥側は書棚が占めており、読書用とおぼしきデスクには、数冊の本が開いたままになっている。不気味なのはカーテンで仕切られた窓の向こうで、何か機械の作動音らしきが聞こえてくる。窓の前には制御装置と思われる機器が並んでいるけど、何に使うものかは見当もつかなかった。
そしてあたしは理科室で使うような広めの作業用テーブルに、上体を預け突っ伏しているようだった。感覚がないんで分からなかったけど、頑丈そうなロープで後ろ手に縛られ、脚も同様に戒められていた。これでは例え身体が動くようになっても、逃げられそうにない。
やっぱり、あたしは捕まったんだ。それは見えない恐怖となって心に沁み渡り、不安が胸を締め付ける。ガチャリとドアの開く音が聞こえたのは、その時だった。
音は後ろ側から聞こえてきて、誰かの入ってくる気配だけが伝わってくる。咄嗟にやり過ごそうと目を閉じるけど、ゆっくり近づいてくる足音に、心臓がバクバク鼓動を刻む。やがて足音が止まると、聞き覚えのある声が頭の上から降ってきた。
「何だ、もう目が覚めてんのか?」