fate-1
scene・1
それは突然の事だった。
(・・・とここで臨時ニュースをお伝えします。
今日、昼過ぎにナイフを持った女が女性を刺そうとし、身代わりになった男性が刺され心肺停止の重傷を負い病院へ運ばれました。繰り返します・・・)
私はTVを何気なく見た。
そして、それに映った視聴者投稿の映像を見た時、何も聞こえなくなった。
悲鳴が上がっている。
逃げ惑う人々。
その中で、血まみれになって倒れてる一人の男性。
それは・・・間違いなく彼だった。
ナンデ・・・ドウシテ・・・?
全ての機能が止まった真っ白な頭の中でふっと何かが浮かんだ。
(うん、必ず会いに行く、絶対に。)
あぁ・・・これは・・・
(あぁ、君がここに来るのを楽しみにしてる。)
昨夜、交わした約束だ。
彼は嬉しそうに涙しながら笑っていた。
その笑顔が、苦しそうな表情でカメラに向いた。
その次の瞬間、私は口を押えた。
彼が悲しそうな顔になって、何かを言った。
騒音に紛れて聞こえないはずの声は、私にははっきりと聞こえた。
「ごめんな」
そして、映像は終わった。
いや・・・そんな・・・いや・・・
手が届かない場所へ彼は連れて行かれてしまうかもしれない。
彼の元へ早く行きたい。
そんな衝動が体を動かそうとする。
でも・・・無理なのだ。
私と彼の間には大きな壁がある。
私一人だけでは何もできない、大きな壁が。
私は私の無力を怨んだ。
大切な人の元さえ行けない、私に。
彼の無事を祈る事しかできない、私に。
そんな、混沌とした状態は無感情な声によって終わった。
(・・・続報が入ってきました。刺された男性は搬送された病院で・・・)
シボウガカクニンサレマシタ。
一瞬、私はどういう意味か理解出来なかった。
いや・・・したくなかった。
でも、頭の中でその音は無感情に直された。
死亡が確認されました。と。
私は、思わず座り込んだ。
そして、涙が流れ、叫んでいた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
溢れる様に涙と共に出たのは彼との思い出だった。
そして、彼は遠い遠い場所へ行ってしまった。
私を変えてくれたたった一人の人が。
意識が薄れ倒れながら思い浮かんだのは、
ごめんな。
という彼の顔だった。
scene・2
「どうしてよ!」
そんな言葉が聞こえたのは、自分がもうすぐやってくる彼女のためにサプライズプレゼントを買い、鼻歌混じりに駅に向かう途中だった。
駅前広場で酒気を帯びた男女が言い争ってる。
なんとなく気になり足を止めた。
どうやら二人はカップルだったようだが、彼氏の方が浮気をしてた女とばったり会ってしまったらしい。
何となく、縁起でもないなぁと思っていた。
そんな中。
「お前は遊びだったんだ!!」
と、彼氏が言い彼にくっついてる女が
「早く消えろ!」
等の大暴言。
うわ〜と思っている間に、二人が駅へ行こうとしていた。
その時だった。
捨てられた方の女性が何かを取り出したのだ。
ギラリと光る何かを。
それが何かと気づいた瞬間に、女性は走り始めた。
女に向かって。
自分は、夢中になって走った。
そして、彼女が女に追いつく前に手を掴んだ。
「止めるんだ!!」
一時の情で、彼女が取り返しのつかない事をするのだけは見過ごす事は出来なかった。
しかし、自分は忘れてしまっていた。
彼女が酒を飲んでいて理性を失っている事を。
つまり、そんな止め方が危険な事を。
「離せよ!!」
そういって無闇に振り回した。
そして。
ドスッ。
そんな音が辺りに響いた。
自分は何が起きたのか一瞬分からなかった。
下を見て左胸にギラリと光る物・・・カッターが刺さっている事に気づいた。
一瞬の沈黙。
そして、悲鳴。
自分は倒れた。
彼女、そしてカップルも駆け寄ってきた。
彼女は顔を手で覆ってずっと謝っていた。
カップルも、救急車を呼んだりしていた。
そんな中、自分は意識が少しずつ遠くなるのを感じた。
その時、こっちを撮っているカメラを見つけた。
それを見た時に、何故か約束を思い出した。
(うん、必ず会いに行く、絶対に。)
自分は、その言葉は嬉しくて泣き笑いながら言った。
(あぁ、君がここに来るのを楽しみにしてる。)
痛みや、苦しみの中、後悔の念が広がった。
彼女との約束を果たす前に死んでしまうのか・・・
そう思うと悲しくなった。
彼女を置いて逝ったらどれだけ悲しむのだろうか?
考えるだけでも、肉体的な痛みより痛んだ。
目から熱いものが流れるのを感じながら、自分はこう言った。
ごめんな。
約束を果たせずに逝ってしまって。
君を悲しませてしまって。
何より、自分を救ってくれた恩返しも出来なくて。
ごめんな。
そして、自分は最後の力を振り絞って目の前で泣いてる彼女にこう言った。
「これ・・・を・・・彼・・・女に・・・わた・・・し・・・て」
胸ポケットから、取り出した彼女へのサプライズプレゼント・・・彼女の為にオーダーメイドした星のようにダイアモンドが付いてる結婚指輪・・・
そう、彼女に告白するつもりだったのだ。
でも・・・それは叶わないだろう。
多分、心臓に近い大動脈が傷ついてるからか、出血量が多過ぎる。
恐らく、死ぬのだろう。
せめて、これだけは・・・
これだけは届け、そう思った。
それを彼女は強く頷いて受け取った。
そして、自分は意識が消える直前にもう一度届かないだろうが、空の上・・・宇宙にいる彼女へ言った。
ごめん。
ごめんな・・・Lumi。
そして、自分は暗闇に飲み込まれた。