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Sincerely -エリカの餞-
【二次創作 その他小説】

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007 ゲームスタート・1-1


 007 ゲームスタート・1





 教室を出て行く際に手渡されたデイパックを硬く胸に抱き締め、香草塔子(女子四番)は昇降口の扉を開けた。普段ムードメーカーとして名を馳せ、緊張感がまるでないと称される塔子だったが、さすがに小刻みに身体が震えるのを感じていた。
 名簿順に名前が呼び上げられ、塔子の出発はたった八番目だった。教室を去る際に仲間たちになにか一声掛けようかと悩んだが、やめた。危険を侵してまで伝える必要はないと感じたからだ。何故なら──そう、塔子は半ば確信していたのだ。外ではクラスのリーダーとも呼ぶべき存在の泉沢千恵梨(女子二番)が、出発する生徒一人一人に声をかけ、結託しているはずだ、と。千恵梨の出発は四番目だった。千恵梨よりも前に出て行った秋尾俶伸(男子一番)、有栖直斗(男子二番)、朝比奈深雪(女子一番)の三人はともかくとして、それ以降の生徒たちは多分、どこかに身を隠して、自分たちを待っているはずだった。
 見知らぬ教室で目覚めた時、恐怖を感じなかったわけではない。同じグループで仲良くしていた七瀬和華や、旅行で一緒の班になっていた筒井惣子朗が次々と殺害された時は、あまりのショックに涙が出た。悲しかったし、途方に暮れた。でも、ベアトリーチェと名乗る女に殺し合いをする≠ニ紙に書かされた時に思ったのだ。所詮、こんな暗示をわざわざかけなければ進行しないゲームなのだと。そして、多少惑わされた面があったとしても、クラスメイトたちがこんな暗示にずっと引っ掛かっているわけがないと。
 惣子朗も言っていた。二年半もの短くも長い時を、みんなで一緒に過ごして来た。仲が良かった。他のクラスでは問題になったようだが、自分たちのクラスにはイジメもなかった。もちろん、多少浮いているクラスメイトも中にはいたが、その面々だって誰かを忌み嫌ったりなどしていなかったはずだ。
 だから教室を出る時、塔子はむしろ毅然としている方だった。なにより、外では泉沢千恵梨が待っていると信じていた。心強かったのだ。

 昇降口を通り過ぎて校門まで続く広い歩道を見つけると、塔子は確かめるように歩みながら周囲を見渡す。千恵梨の凛としていて透き通った力強い声で呼ばれるのを待った。

 しかしいくら待っても、塔子を呼ぶ声は現れなかった。

 その変わり、無造作に桜木の根元に集められた落ち葉の上に、背中や肩、脇腹や腹や──とにかく、様々な箇所から赤い液体を垂れ流して横たわる人影を、見つけた。
 塔子より一つ前に出発したはずの、金見雄大(男子四番)だった。





10/19 PM22:05
男子四番 金見雄大──死亡

【残り:四十一名】


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