蜘蛛娘 金銭鏢の娘 後編-1
蜘蛛娘は、日を措かずに娘の様子を見に行く。
小屋の廻りには、厳しく結界が敷いてあり、人や獣はおろか、虫すら近寄れない。
もとより、狩場にやってくるのは見廻り役人か、密猟者だけで、
損なおもいをしてまで廃屋に近づかない。
「うぐ、ぐ」
声を出さぬように、舌を噛まぬように、娘は撚った糸で轡を咬まされている。
蜘蛛娘が作った轡はまるで歯が立たない。
冷えぬように薦巻きされた娘は、せいぜいが身体を右から左に倒せる程度だ。
「あきの相手もせねばならぬからな。あきと居るのも仕合わせなのだ。
どれ、餌をやろう」
蜘蛛娘は鼻をつまんで口を開けさせ、咀嚼したものを口移しで娘の喉に流し込む。
まるで雛の給餌である。
何を食わされているのか、解ったものでは無い。
そして、蜘蛛は強力な消化液を出して、
溶かす。
「さあ、出すがよい」
「ううう」
尻の穴の栓を抜かれ、敷いた葉の上に糞を出させられる。
若い娘にとって、最大の恥辱である。
「大分に腹が膨れてきたな」
流石に人に比べて成長が早い。
「うふ、ふふ」
蜘蛛娘はうっとりとした目で、娘の腹に頬ずりをし 、掌で愛おしく擦る。
「恐ろひい。動いていゆのら。殺ひぇえ。殺ひてくえぇ」
娘は落ち窪んだ目で哀願する。
「もう少しだ。何が出てきても私の子だ。嬉しいのぅ。楽しみだのぅ」
蜘蛛娘は破顔一笑する。
「おお、人が産まれたか」
蜘蛛娘が廃屋を訪うと、産まれた我が子は、早速に死んだ娘を啜っている。
娘は破れ、あたり一面に零れている。
苦痛に歪んだ顔には涙の跡が残る。
「ほれ、おいで。もっと居心地の良い処に行こう」
蜘蛛娘は血塗れの稚児を抱き上げる。
「可愛いのぅ。あきもきっと気に入るぞ」