どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-5
少年と少女は深く雪の積もった森の中を歩いていた。
木の実のひとつでも落ちていないかと二人で辺りをきょろきょろ見回す。
二人はほぼ毎日こうして歩き、少年は薪になる木の枝を拾っては背にしょった籠へ入れていく。
「なーんもないねー」
少女が言う。
森に反響してその言葉は幾重にも重なって聞こえた。
「そうだなー」
えいやっと大きめの枝を籠へ入れる。
今日はだいぶ奥まで来たらしい。
少し先で大きな倒木に少女が座っていた。
「こら、さぼんな」
そこまで少年が歩き隣に座ると少女はいつもの幼い顔を消して森の置くをまっすぐ見ていた。
「どうした?」
少年が言う。親の事でも思い出しているのだろうかと、思いながら。
少女は一度少年を見て、また森を見つめた。
二人の間に会話は無く、少年は籠を背から下ろす。
ごくたまに少女はこんな風になる。
もう出会って半年たつがいまだに少女は自分の事を何も話さない。
何かを考えているような思い出しているようなそんな顔をしてまっすぐ森を見つめていた。
少年がポケットから乾燥させた赤い実を口に入れた。それは唾液を含むと段々と大きくなり甘い汁が口に広がる。
少女へそれを差し出すが彼女は首を振った。
それからそっと口を開いた。
「あのね、話が、あるの」