どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-4
昔、流行っていたその酒場は開店休業状態だった。
モアモアとタバコの煙だけが充満し、女達は店主と共に毎日カードばかりしている。
彼女達には既に親が無く、居場所はここしかなかった。
カランカランとドアのベルが鳴る。
一斉に一同が振り返る。
客だとしたら何日ぶりだろう。
彼らの視線の先には体中に雪を積もらせ上着のフードを深く被った男が立っていた。
その顔はとても不機嫌そうで所々鱗のような物が見える。
ドアを後ろ手に閉めて男は言う。
「申し訳ないが強い酒があればそれを一杯。あとは……」
男が女達の顔を一人ずつ見つめ、限りなく黒に近い紺の腰までの髪を持つ女を指差した。
「彼女と二人になれるよう、部屋を」
ヒューと周りの女達が口笛を吹く。
指名された女は周りに自慢するような満面の笑みを見せながら立ち上がり、薄布を何枚も重ねた服をわざとひらりひらりとさせながら男に歩み寄り、その肩に雪を手で払う。
いくつも着けているアクセサリーがシャランシャランと音を鳴らす。
そっと肩に寄りかかり耳元に赤い唇を寄せた。
「おにーさん、ありがと。忘れられない時間にしてあげるわ」
二人は寄り添って二階の部屋へ消えていく。
店主は急いで酒の準備に取り掛かり、残った女たちはまた何事も無かったかのように、ただ溜息をつきながらカードの続きを始めた。