どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-28
どうして、開いているの?
リリアはゆっくり歩いていき外にあった箒を手に取った。
ドアをゆっくりと開ける。
家の中は真っ暗でいつも絶やさないはずの暖炉の火まで消えていた。
「マ、ママ……?パパ?」
どかから入る光でようやく中が薄っすら見える。
一歩踏み出すと床がぬるっとして滑った。
その黒く見える液体を目線でたどっていく。
そこに二人はいた。
小さな妹も。
三人の目が自分を見ていた。
首だけの姿で。
「ひっ!」
持っていた箒を落とし思わず息を呑む。
その奥のテーブルの下に見える人形のようなものは……。
いや、見なくても分かる。
「何で、なんでぇ」
頭が混乱する。
どうして近所の人は気づいていないの。
あしががくがく震えて頭に血が上る。
涙が次から次へと零れて落ちる。
たった数時間前まで生きていてご飯を作ってくれて、喧嘩して、お話してくれて。
一人に、なってしまった。
嗚咽を繰り返すと白い息が次から次へと口から漏れた。
どうしたらいいのか分からなくなって、初めてリリアは叫んだ。
力の限り精一杯に泣き叫ぶ。
やがてそれがすすり泣きに変わり周りを見渡した。
玄関脇の鏡にふと目が止まる。
鏡の中には自分とそっくりの少女がいた。
金髪で耳はとがっていなくて。
額には赤いきらきら輝く石があって。
彼女もまた、泣いている。
そして目が合うと必死にリリアに何かを訴える。
「何よ!」
ドンっと鏡を叩く。
中の少女が身構える。
少女は必死に暖炉を指差した。
その顔は今までに無く真剣でリリアはますます怒りを覚える。
「わかんないよ!そんなとこにいないで出てきてよ!助けてよ!」
涙がますます溢れ零れ落ちる。
鏡に手を着きわんわん泣いた。
少女がその手に自らの手を合わせてくる。
リリアの心に声が聞こえる。
『大丈夫』
はっとして前を見る。
少女は大きく頷いた。
『私は……もう一人の貴方』