どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-27
「でもどうして僕がオギアスだって分かったの」
手をしっかりとつなぎ雪道を歩いて帰路に着いていました。
さくらい、さくり、と森の中には二人の足音だけが響いています。
しばらくそのまま歩くと突然ネーサが立ち止まりオギアスを見ました。
「蝶が」
指で蝶の形を作ると金色のそれが現れて二人の周りをふわりと舞って消えました。
「あぁ」
納得したようにオギアスが頷きその先をネーサが続けないには何か理由があるのだろうと、それ以上何も言わずに二人はまた歩き出します。
「昔もこうやって暗い森の中を二人で歩いたね」
ネーサが微笑んでオギアスに言います。
最初に出会って二人で悩んで、確かにあの時も手を繋いでいた。
「そうだね」
オギアスもそう返し二人の間に笑みが零れました。
あれから何百年も経ちきっと二人は何度も生まれ変わり、最初は夫婦として生きたのが今はこうして他人となっています。
二人の中に前世の記憶はまったくありません。
ただ、あの時のあの時代の記憶と、今までもう一人の自分として生きた記憶だけでした。
オギアスはネーサの手を少し力を込めて握ります。
「今度はちゃんと守るから」
その言葉が何を意味しているのか、ネーサには分からず、ただ頷きました。