どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-26
マイラとジャックと共に酒場の外でマスターや女達と別れを惜しんでいた。
表向きの理由は求婚されたという事にしてマイラは酒場を辞めた。
マスターは売り上げも悪いことも有りひとつ返事で快く承諾した。
そればかりか退職金だと少し大目のお金とマイラが身につけていたアクセサリーを受け取らずに困ったら売りなさいと言った。
マイラが10歳の頃から下っ端として働いていたこの店。
マスターにとっては子供同然だったのかも、しれない。
みんなに見送られ二人は歩き出す。
すっかり旅支度を終え、マイラは昨日と打って変わって普通の女になっていた。
まずは町外れ馬屋を目指す。
とりあえず長い旅になる事はおおいに予測できていた。
「なぁ、マイラ」
酒場のみんなが見えなくなり人通りも少なくなるとジャックが歩きながら尋ねてくる。
マイラがジャックを見ると彼はある形を指で宙に描きながら言う。
「出せないのか、アレ」
よく分からずマイラが首を傾げる。
するともどかしいようにジャックが言葉を探し、
「ほら、えーと、よく使ってただろう。君の姉君との連絡に」
と、言った。
マイラははっとした表情になり少し考えこむ。
「分からない、アレはあの存在があってこそのものだから」
どうやったかしら、と、マイラは思い出そうとぶつぶつ呟く。
「それなら尚更やってみたほうが良いんじゃないか。小さな大切な僕たちの君が居るかどうかも分かる、そうだろ?」
マイラはその言葉に驚き、また大きく頷く。
そしてそっとソレを思い出した。
たしか、こうやって……。
指ですっと形を作る。
そしてふぅっと息を吹きかけると、そこには金色の蝶が金色の粉をパラパラと落としながら空中に現れる。
マイラの両手の中できらきらとそれは輝き何度か羽を上下に動かす。
「出来た」
ジャックを見ると彼も大きくう頷いていた。
マイラは何かをぶつぶつと蝶へ向かって呟き、そっとふぅっと息を掛けた。
まるでそれが合図のように蝶が羽ばたき浮かびあがり二人の周りを一周すると空高く昇っていった。
「これで少なくともあの子はいると分かったな」
ジャックが空に消えていく蝶を見ながらいい、マイラも大きく頷いた。