どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-20
「ぱーぱ、あたま、どうしたの?」
まだ小さな愛娘がオレの帽子を指して言う。家の中でもそれを被っていることに疑問を感じているのだろう。
「なんでもないよ。気に入ってるから被ってるんだ。」
そらっと抱き上げて二階の子供部屋の小さなベッドまで運ぶ。
妻はまだ台所で夕食の片づけをしている。
娘の小さなベッドには妻手作りのピンクの色々な柄の布で作ったパッチワークのキルトのカバーが掛かっている。
おもちゃが部屋中に転がりお気に入りのくまさんを拾い上げると娘と一緒にベッドに入れてやる。
「ほら、もう寝る時間だ」
ぽふぽふと娘の頭を撫でてやる。子守歌を歌い、お腹のあたりを優しく叩いてやるとすぐに寝息を立て始めた。
一階へ降りると妻がテーブルに座り白湯を飲んでいた。
「寝た?」
「ぐっすり」
いつも通りの夫婦の会話。
「さて、もう一仕事してくるよ」
玄関脇のコートとマントをとると妻に言う。
「こんな時間に?」
妻は驚いて声を上げた。
しーっと指を立ててそれを注意する。
「急ぎの仕事が入ってね」
町の小さな修理屋をしているオレにはそういうことが多々ある。
「そう……、気をつけてね」
妻はそう言い暖炉からランプの中の油へと火種を着けて渡してくれる。
それを受け取るとドアを閉め歩き出す。
歩みを進めるごとに視界がぼやける。涙が滲んで前が見えない。
ついに立ち止まりランプをその場に置いて両手で顔を覆って泣き始めた。
どうして、どうして、オレなんだ。
もっと、一緒に居たかったのに。
やっと一人じゃなくなったのに。
やっと家族を持てたのに。