どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-2
「もうイモだけのスープ飽きたー」
木の枝で作ったスプーンをがしがしテーブルに当てながら桃色のふわふわの髪の少女が頬を膨らませながら言った。
「しょうがないだろう。ほかに何も無いんだから」
どんっと木の器を置く少年。
彼の髪は茶色で、ショートボブ。
見かけは女のようだが、緑色の目で睨むその目つきは男そのものだった。
置かれたスープをかき混ぜる少女。
イモのスープというよりは汁にイモが浮いているだけだった。
永い冬が終わらず食料はどんどん値を上げた。
動物たちも冬眠を続け、あるいはその寒さに耐えられず命を落とし、ごくたまに現れると村を上げての狩りが行われ、ほんの一握りの肉がようやく手に入る程だった。
世界中で死者がどんどんと増え、夜の空は天へ昇っていく色々な光で満ちた。
人口はきっともう三分の一程になっている。
イモのスープで喧嘩をしていた二人は兄妹では無い。
たまたま何か無いかと森を歩いていた少年が拾ったのだ。
村の者じゃないところ見ると口減らしで捨てられたのだろう。
膝を抱えるように座って真っ青な顔をして白い息を吐き頭に積もった雪も払わず、少女はそこに座っていた。
「おい」
少年が声をかけるとようやく顔を上げた。
頭や肩に積もった雪が少し落ちた。
「分かってんだろ。もう誰も来ない。……来いよ」
差し出された手を少女は素直に取った。
目に溜めておけない程の涙が浮かぶ。
その後当たり前だが村の誰もが引き取らない少女を少年は引き取った。
もう元々両親と死別し、村のみそっかす扱いをされていた少年は内心嬉しかった。
が、慣れれば慣れる程少女は想像以上に我侭で、今もスープに文句を垂れている姿に溜息をついた。