どこにでもある ただ ちいさなおはなし1-19
桃色のふわふわの髪を持つ少女は名をリリアと言った。
「リリアー!ごはんよー」
大好きな母親の声が一階から聞こえる。
絡まった髪にブラシを掛けていた手を休めることなく返事をした。
一階へ降りると父と兄も居た。桃色の髪は母親譲りで、父と兄は綺麗な銀髪をしている。
食卓には湯気を立てているスープとほんの一口分のパン。
もう長いことこんな食事ばかりでリリアは口をとがらせる。
慣れたとは言え段々とスープの具も減っているし、パンも小さくなっていく。
パンだっていつまで食べれるか分からない。
学校の給食もなくなって久しいらしい。
昔は春とか夏とかそういう季節という物があったらしいが、リリアは見たことはなかった。
本や人から聞くのみだ。それだって本当に知ってるのかさえ怪しい。
「早くしないと遅刻するわよ」
母の声にうなずきゴクゴクとスープを飲み干した。
パンはポケットに大切にしまう。お昼ご飯にはあまりにも少ないが、無いよりはマシだった。
戸口の側にかかった自分の上着と帽子とマントを取り、肩から鞄を掛ける。
ドアを開けると案の定外は吹雪いて居た。
「行ってきまーす」
家族に手を振り外に出た。歩きながら余所の家の窓ガラスをちらりと見て目を伏せる。
また、こっち見てる。
見たくない。
リリアは誰にも打ち明けられない秘密を今日もまた心にしまって学校への道を急いだ。
自分が可笑しいのかもしれない。
鏡や水面の自分の姿が映る場所では必ず自分以外の姿が映った。
それは金髪でいつも何かを訴えるように口を動かしていた。