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もう君に会えない
【大人 恋愛小説】

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届かない想い-9

「俺、すっかり舞い上がっちまってたんだ。

ずっと好きだった女が自分のものになってくれると思うと、一緒に暮らせるその日ばかり待ちわびてた。

茂が死んだなんて知らない俺は、彼女がどんな思いで毎日を過ごしていたなんて全く考えず脳天気にはしゃいでさ。

ホント、俺ってバカで最低」


彼はククッと小さく笑って、ろくに煙草を吸わないまま、備え付けの灰皿に煙草を押し当てた。


だけど、その手は静かに震えていた。


たまらずあたしはその手を掴んで両手で包む。


ーー無理して笑わなくたっていいじゃないですか。


そう言ってあげたかったけれど、自嘲気味に笑う久留米さんがあまりに悲しくて、あたしは気付いたら久留米さんの大きな手を自分の頬に寄せていた。


あたしの行動に、驚いたように彼の息の飲む音が静かな車内に響く。


さっきまで車内を曇らせていた白い煙がゆっくり溶けて消えるのを確認すると、彼の手を包んだ手にギュッと力を込めた。


同時に滲み出てくる熱い涙が、頬を伝って久留米さんの手を濡らしていく。


なんとか、この人の心に燻ったままの後悔を、取っ払ってあげられないだろうか。


そう思っていても、無力なあたしにはただ、こうやって話を聞いてあげられることしかできない。


“ようやく笑うようになったな”と言った副島主幹の言葉がふと頭によぎる。


でも、それは本当に笑えるようになったわけじゃない。


この人の心にはずっと重い枷のようなものがあって、それを自ら繋ぐことで、闇からあえて抜け出さないように自分を痛めつけている、そんな気がした。


出会った頃の、無口で無愛想な鉄仮面男。


きっと、あたしが出会うよりずっとずっと前から、この闇を抱えて生きてきたんだ……。


久留米さんの手があたしの涙で濡れてしまったけれど、彼はその手を振りほどくわけでもなく、ただ力無くあたしの手の中で震えているだけだった。





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