届かない想い-5
「でも俺はその時のことは過ちとは思ってない。
彼女にしてみれば、浮気に対する仕返しでも、俺にとってはたった一晩でも恋人になれたような気がして、幸せだったよ。
でも彼女は後悔してるみたいだったし、だったら彼女のためになかったことにしようって決めたんだ」
あたしの予想とは裏腹に、過ちと思ってないと言い切った久留米さん。
それを聞いた瞬間、あたしの目から涙がジワリと滲み出てきた。
そしてそれは一つの雫となって、あたしの手の甲にポツリと落ちた。
一方的な片想いでも、身体を重ねて恋人のような気持ちに浸る久留米さんの気持ちが、塁と関係を続けてたあたしには痛いほどよくわかる。
それでも彼女のために、そんな微かな幸せもなかったことにして今まで通り振る舞う久留米さんの姿が容易に想像できて、鼻の奥がツーンと痛んだ。
「でも、朝帰りした彼女は茂に問い詰められたみたいで、結局浮気がバレちゃったんだ。
まあ、彼女は相手が俺じゃなくて別の男と言い張ったらしいんだけどな。
もともと浮気された仕返しを焚きつけたのは俺だったし、そこまで罪悪感は持つ必要はないって思ってたんだ。
それで、浮気される方の痛みを茂がわかってくれればもう浮気はしないだろって自分に言い聞かせてたんだけど……」
そう言って、彼は髪の毛の中に右手を差し込んでその手をグシャリと握った。
彼の唇がワナワナと震え始め、丸まった背中がより一層小さく縮こまる。
「でも、いつも脳天気でヘラヘラしてばかりの茂がそれを知った時、アイツは彼女のたった一度の浮気がどうしても許せなくて、
…………彼女と一緒に無理心中をはかったんだ」
何かに怯えているような弱々しい声を何とか振り絞った久留米さんは、それだけ言うとそのままハンドルに突っ伏してしまった。