届かない想い-12
それからの彼は、泣いてはいたけれど、驚くほど淡々とその日の出来事を話していた。
彼女が打ち明けた無理心中の顛末。
茂さんだけが死んで、抜け殻みたいになっていた日々を送っていた彼女。
そんな彼女を支えようとしていた、真実を知らなかった久留米さん。
茂さんを忘れようとしてもどうしても忘れられなかった彼女は、久留米さんの目の前で、愛する茂さんの後を追ってしまったこと。
そこまで包み隠さず話し終えた彼は、両目を覆い隠すように手をあてたかと思うと、静かに静かに嗚咽を漏らし始めた。
静かな車内に響く、久留米さんのすすり泣く声。
そんな彼の声をかき消すように、開け放した窓から街の喧騒が耳に入ってきた。
酔っぱらった若い男のがなり声。
キャーキャーはしゃぐ女の耳障りな黄色い声。
けたたましく鳴らされているクラクション。
電車が発車する時の空気を切る鋭い音。
今まで気にも留めなかった街の能天気な様子がなんだか腹立たしかった。
静かに泣く彼の姿を見ていると、どうしようもなく胸が苦しくなってくる。
無愛想な彼が時折見せてくれるちょっぴり可愛い笑顔、あたしのピンチに助けてくれた頼りになる横顔、時折見せる寂しそうな瞳、彼のいろんな表情を見るたびどんどん惹かれていったあたしには、このなりふり構わず涙を流す彼の姿を前にして、手を伸ばさずにはいられなかった。