ドリンク-1
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龍は下着姿でベッドの上にいた。
ミカが冷蔵庫から缶ビールを二つ取り出して、一つを龍に手渡した。
「ありがとう、母さん」
「こうやって息子とビールが飲めるってのも嬉しいが、」ミカはプルタブを起こした。「こういう場所でいっしょにビールが飲めるってのも、また格別だな」
「いや、普通ないから、母子でこういう状況」龍も軽やかな音をたてて缶を開けると、一口ビールを飲んでミカを見た。「父さんとも、よくホテルに行ったりしてたの?」
「あたしね、ケンジの二十歳の誕生日に、居酒屋で告白して、その後彼を強引にホテルに連れ込んだんだ」
「ええっ? ほんとに?」
「今思えば、かなり淫乱なオンナだよな」ミカは笑ってまたビールをごくごくと飲んだ。
「で、それが二人の初体験なの?」
「あたしたちの初体験は、ケンジの19歳の誕生日だ。おまえも知ってるだろ?」
「ああ、あれね」龍は手を打った。「その時父さん泥酔してたんだっけ?」
「そう」
「で、母さんの身体中にぶっかけちゃった、っていう……」
「初めての行為がそれだからなー」ミカは笑って、またビールを煽った。
「で、告白した夜はどうだったの? それから丁度一年後の夜」
「それがねー、ケンジ、あたしを抱きはしたけど、セックスはしなかったんだよ」
「そうなの? もしかして、母さん、父さんにしこたま飲ませて、またべろべろに酔っぱらわせてた、ってこと?」
「いや、ケンジは居酒屋では酒は一滴も飲まなかったんだ」
「へえ。じゃあどうして……」
「ホテルで、一応二人とも裸になって抱き合ったけど、ケンジ、元カノとのことを思い出して、あたしと繋がるのを躊躇したんだ」
「元カノって、マユミ叔母さんのことでしょ?」
「そ」ミカはビールの缶を持ち上げ、残った中身を喉を鳴らして飲み干した。
「まじめなんだね、っていうか、律儀なのかな……」
「ま、告白してすぐ、っていうこともあってさ、ケンジもあたしのこと好きではあったらしいけど、いきなりマユミじゃないオンナとセックスするのには抵抗があったんじゃない?」
「二十歳になったばっかりだしね」
ミカはまた冷蔵庫を開けて、二本目の缶ビールのプルタブを起こした。
「また飲むの? 母さん。本当にビール、好きだね」
「ああ、好きだね。おまえも飲む?」
「遠慮しとく。酒のせいで中折れしたくはないよ」
「そんな歳か?」ミカがにやりとして龍を見た。
「気を遣ってるんですよ、母上」龍は笑った。
「そう言えばおまえ、どうして途中で抜くんだ? イく時。中に出しても良かったのに。その方が気持ちいいだろ?」
龍はビールの缶を両手で包み込んで、目を閉じた。「俺さ、真雪が板東に中出しされたことが許せない、って思って以来、自分も他の女性の中に出すことにすっごく抵抗を感じるんだよ」
「安全期でもか?」
龍は顔を上げて前に立ったミカを見た。「それは関係ない。真雪も板東との時は安全期だったし。でも、妊娠しようとしまいと、液を体内に直に注ぎ込む、っていうことが俺、どうしても許せなかった。だから俺も、真雪以外に中出しはしないって誓ったんだ。と言っても」龍は照れくさそうに笑った。「もちろん真雪以外の女性を抱くのは母さんが初めてだけどね」
「気にしすぎだろ。板東と真雪の一件は、超特殊な出来事だったんだから。おまえまでそれにこだわる必要はないんじゃないの? オンナは意外に中出しで感じるものなんだぞ」
龍は目を上げてミカの目を見つめた。「これだけは譲れないんだ。ごめんね、母さん」
「頑固だな、おまえ」ミカは言った。「でも、あたしぶっかけられるのも好きだから、さっきは別の意味でかなり興奮したよ」
「そう。良かった」龍は少し恥ずかしげに微笑んだ。
「それにおまえ、バックからやるのも、あんまり好きじゃないだろ」
「え? わかるの?」
「直感だよ直感。なんでだ?」
「動物が交尾してるっぽくて、なんか、相手をただのメスだって、思ってしまいそうだから」
「メスじゃないか。正真正銘。おまえだってオスだろ?」
「よくわかんないよ、俺だって。でも、向かい合って抱き合ってイく方が好きなことは確かだね」
「真雪とはいつもそんなクライマックスなのか?」
「うん。ほとんどそう」
「動物的ってのは、逆に燃えるだろ。イく時向かい合ってれば、それまでの過程でバックで攻めるのもアリなんじゃないのか?」
「もういいだろ。好みの問題じゃん、そんなの」
「変なこだわりだな」