ドリンク-3
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「改めて見ると、」真雪は、先にバスルームから出て、窓際に立ってビールを飲んでいたケンジに向かって言った。「龍にそっくり。あ、逆か、龍がケンジおじにそっくりなんだね」
「そうか?」
「そうやってビキニの下着一枚で立ってると、もうどきどきして、身体中が熱くなっちゃう。龍の時と同じ反応」
「へえ」ケンジがそばにあった冷蔵庫のドアを開けた。「真雪も飲む? 何か」
「チェリーのカクテルとかある?」
「んー、お、あるある。好きなのか? これ」ケンジは冷蔵庫からそれを取り出した。
「好き、っていうか……」真雪はそれを受け取った後、顔を曇らせ、うつむいた。
「どうした?」
ケンジは真雪と並んで下着姿のままベッドの縁に腰を下ろした。
「あたしが板東に落とされた決定打になったのがこのカクテルなんだ」
「決定打?」
「食事の時、あたしワインが渋くて飲めなかったんだ。でね、代わりにあいつこのカクテルを勧めたの」
「そのテの酒って、甘いから酔いは早い。なるほど、板東の企みだな」
「うん。絶対そう。今ならわかる。でもね、あたし、あの年の夏に、龍といっしょに山形のサクランボ、食べたことをその時思い出したんだ」
「いつも田舎から送ってくるあのサクランボ?」
「そう。龍といっしょに食べた後、キスした時にチェリーの香りが身体中に広がってさ、その時の身体の疼きが甦ったんだ、このカクテルで」
「そうか……。偶然だが、真雪を落とすには最も都合のいい酒だった、ってわけだな」
真雪は肩をすくめて困ったように眉を寄せた。「お酒ってホントに怖い……」
「しかし、龍に聞いたが、その、そいつは毎年のように実習生に手を出してたんだって?」
「そうなんだよ。もう病気だよね。一種の依存症かも」
「おまえの通ってた専門学校では、その水族館での実習って、二年生のカリキュラムなんだろ? 」
「うん。そう。毎年20人ぐらいの学生が参加する」
「ということはだ、そのほとんどがその年度に20歳になる子たちばかりなんだ。酒を飲ませて口説く絶好の口実じゃないか。きっと成人祝いだ、乾杯だ、とか言って飲ませるんだろうな」
「その通りなんだよ。あたしもそう言いくるめられてまんまと飲まされた。たぶん、あいつ、そうやってターゲットを誘って飲ませて思いを遂げるってこと、一度やってうまくいったから、調子に乗ったんじゃない?」
「大いに考えられるな、それ」
「女のコを落とす一番安直な武器だからね、お酒って」
「同じ男として、最も許せないタイプだな」ケンジが眉間に深い皺を作って、缶に残ったビールを飲み干した。
「そのことはあたしの人生で最も大きな失敗の一つ。同時に教訓。だから、これ飲んだら、ケンジおじ、続きをやって。あたしの嫌な思い出を消して」
「ああ。わかった。でも、大丈夫か? 真雪。その時みたいに『もうどうなってもいい』なんて気持ちになるなよ」
真雪は笑った。「大丈夫。あの時よりずっとお酒には強くなったからね。でも、ケンジおじ相手ならそんな風になっても問題ないでしょ?」
「いや、だめだろ。あとで龍にむちゃくちゃ怒られるよ。酔わせてセックスしたなんて知れたら」
「確かにもったいないね。ケンジおじにはちゃんと素面でたっぷり抱かれなきゃね」真雪は悪戯っぽくウィンクした。
「ところで真雪」
「なに?」
「夜の龍の得意技、なんてものがあるのか?」
「得意技というより、彼の腕の使い方は絶品だと思うよ」
「腕の使い方?」
「うん。あたしあの腕に抱かれると、それこそもうどうなってもいい、って思うもん。お酒飲んでなくてもね」ふふっと真雪は笑った。
「そうなんだ」
「一番安心できる場所を、一番安心できる力と温かさで、きゅうって抱いてくれる。時にはそれでイくこともあるよ」
「へえ! 抱かれるだけでイくのか? そりゃすごいな」
「少なくとも、ここが洪水みたいになっちゃう」真雪は恥ずかしげに言った。「だから外で抱かれたら困ったことになるんだよ」
「そんな特技があったんだな、あいつに」
「ミカさんはどうなの?」
「必殺『昇天ダブルスクリュー』」
「は?」真雪は思いっきり変な顔をした。「な、何なの? それ……」
「ミカの必殺技だ」
「ど、どんなワザなの?」
「一度イかせた後、間髪を入れずに両脚で腰を固定して、強制的に再度イかせるんだ」
「ほんとに?」
「オトコのこいつを締め付けて、まるで回転するように粘膜が絡みついてくる。そうなるともうどんな状態でもイくしかない」
「すごいね! 今夜龍もそんな目に遭わされるのかな……」
「たぶん、やられるよ」ケンジは面白そうに言った。
「楽しみ! 後で訊いてみよ」