003 天井の金魚-4
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パン、パン、と鉄板を張り巡らせた教室に乾いた音が響き渡る。
次の瞬間に奏でられるのはソプラノのコーラス。そして、真っ赤な絵の具が天井に向かって鮮やかな色彩を描く。天井の金魚の話を思い出した。絵の具が勢い良く飛び散って行く光景は、和華にはまるで金魚が泳いでいるみたい見えた。ゆらゆら、ひらひら、きらきら、と泳いで、そして、地上に落ちて行った。水槽が割れて金魚が床に投げ出されたのだと思った。
金魚の群れが空中を泳いで、泳いで、床に寝転んだ惣子朗の上へ落下して行く。ああ、そうだ──天井に金魚を描いたのは、あなただったんだ。水槽は、あなただ。
和華は割れた水槽に手を伸ばす。いつも届きそうで届かなかった天井の金魚に、触れたいと思った。ああ、でも、何故──同じ目線にいるのに、こんなにも遠いのだろう。
私にとってあなたは、天井を泳ぐ金魚だった。本当はずっと恋い焦がれていたの。触りたかった、確かめたかった。あなたにとってはどうだったのだろう。ああ、こんなことなら好きだと言ってしまえば良かった。今ならまだ間に合うだろうか。そして私は手を握って、あなたを地上に、連れて降りるの。
【残り:四十四名】