第4章 会合-1
九月十四日 水曜日
「あの〜、すみません」
お昼休みも半ばを過ぎた頃、ちょうど教室から出てきた男子生徒に声をかけると、その三年生の先輩は、あたしを見るなりぎょっとしたような表情を浮かべる。
まぁ、よくある反応ね。突然二年生の、それも金髪碧眼の女の子に声をかけられたらびっくりぐらいはするでしょう。
「え〜と、何かな」
地味な感じのするその先輩は、少し照れたような反応を見せるが、あたしの観察眼は容赦なく相手を見透かす。瞳には好奇を伴った嬉しそうな輝き、でも不安の影が見え隠れ。女の子にも外国人にも慣れてないって感じね。視線をはっきり合わせようとはせず、代わりにちらちら胸元に向けてくるのは、内向的で押しに弱いって感じかしら。付け加えるなら、おっぱい好きね、きっと。
その彼の目に驚きの色が浮かんだのも、あたしは見逃さなかった。視線の先はあたしの斜め後ろ、むっつりした顔で立っている瀬里奈に、いや、正確に言えば瀬里奈の胸元に向けられていた。
ふぅ‥、これだから瀬里奈と一緒は嫌なのよね。こう見えてあたしだって胸はある方だけど、背も胸も一回り大きい瀬里奈と並ぶと、引き立て役がいい所。
‥まぁ、これもよくある反応だわ。気を取り直して用件を済ませましょ。
「あたし達、綾小路先輩を探してるんですけど、どこにいるか知りませんか〜?」
「綾小路さん?ああ、彼女なら食事じゃないかな」
んもぅ、そんなことはわかってるわよ。あたしが知りたいのはどこにいるかなの!
普通、学院生は食堂で昼食をとることになっている。一般の学校と同じく、好きなメニューを注文するレストラン形式だが、食事代は学費の中から賄われるので、代金を支払う必要はない。ただし健康上の理由から、偏食や肥満の生徒には管理栄養士の指導で食事制限が入ることもあり、これを嫌がって食堂で食事をとらない生徒もいる。また事前申告することで、テイクアウトメニューを選ぶこともでき、食堂以外で昼を過ごす者もいる。ちなみに今日はあたしたちも、そのテイクアウトメニューを頼んでおいて、手早く済ませてきたところ。
少し前までなら、昼食時の彼女の居所は聞くまでもなかった。食堂でVIP席と称される一角、他から少し離れた所にある日当たりの良いテーブルは、歴代生徒会執行部が食事をとる場所と昔から決まっていた。だが、今そこは現生徒会執行部のメンバーが占めているはず。だから念の為と思って、わざわざ三年の教室まで所在確認に来たわけだが、聞いた相手がまずかったかな。
他の人をあたっても良かったんだけど、実は内心むっとしていたのよね。だってこ〜んな可愛いあたしを前にして、他の女の子の胸に目が行くなんてちょっと失礼じゃない?
「えっとぉ、綾小路先輩が〜、何処でご飯食べてるか御存じないですか〜」
甘えた感じの声をだして、下から覗きこむようにして顔を近づけてみる。うぶそうな先輩は案の定顔を真っ赤にして、あたしが近づいた分だけ後ずさりする。何か口の中でもごもご言ってるようだが、言葉になってない。ふふん、あたしの魅力にかかれば、男の子なんてこんなもんよ。な〜んて、自尊心を回復していい気になっていたら‥