第4章 会合-3
別に自惚れて言ってるわけではなく、自分がどう見られるかを知るのは、インタビュアーにとって大切なこと。報道部のインタビューは、当事者にしてみればゴシップに首を突っ込まれる迷惑なもので、そう言う相手から情報を引き出すために、自分がどういう印象を相手に与えるかを知るのは大事なことなのだ。それを考慮して、アプローチの方法を変えたり、質問内容を考えたり。例えばさっきの先輩みたいに、ちょっと可愛く迫るだけで、しどろもどろになってしまう男の子もいたりする。
「‥あ、ところで紫苑はどうしてるの、何かわかった?」
これ以上この話題を引っ張りたくないのか。意図的かどうかは知らないけど、瀬里奈は話題を変えてくる。そう言えばお昼が一緒じゃなかったから、組の違う瀬里奈はまだ会ってなかったわね。
「だ〜め、さすがにあれ以上の情報は出ないみたい。スタジオを探すとなると、虱潰しになりそうね」
「そっか、まぁ、あの子は十分良くやってくれたよ」
「うん、今日はすっごく眠そうだったし。あたしより先に教室来てたけど、あまり寝てないんじゃないかな」
授業中、うつらうつらしていた紫苑の姿を思い出し、ちょっと胸が痛む。でも、彼女の頑張りを無駄にしないためにも、今度はこっちが頑張らなくちゃ。
「それにしても、瀬里奈もちゃんと紫苑のこと心配するようになったのね、感心感心」
「あのね、私は別にあの子のことが嫌いなわけじゃないのよ。ただヘマトフィリアが理解できないだけ」
「‥えっ、ヘマ‥‥、何、そのなんとかヒリアって?」
「血液嗜好症のことよ」
「‥あ〜、まぁ、あれはねぇ‥」
すっかり慣れてしまった自分も怖いが、確かに紫苑の好みは、普通の人には理解できないかも。
なんて、いつもの調子でおしゃべりしてるけど、通い慣れたはずの食堂が近づいてくると、あたしは胸がドキドキして来るのを覚える。今、もっとも売春組織の黒幕として疑わしきは、日本を統べるグループの令嬢にして学院の元執政者。だけどどんな肩書を背負っていようと、一つ年上の同じ高校生なのだ。
浮ついた気持ちを引き締めて、インタビュアーとしての臨戦態勢に入る。さぁ、相手にとって不足はなしよ。絶対真実をひきだしてやるんだから。
明るい午後の陽ざしを背に、私は紅茶のカップを口にする。昼休みの食堂は喧騒に満ちており、もう座ることもないと思っていた席から、その見慣れた光景を眺める。
「それにしても光栄です、貴方と席をご一緒できるとは」
向かいの席に座る九条会長は、爽やかな笑みを向けてくる。今このテーブルには、私と彼の二人きり。
食事を簡単に済ませ、生徒会のテーブルを訪れたのはつい先頃のこと。彼等は珈琲を嗜みながら、談笑しているところだった。私の訪問は彼らを驚かせたようだが好意的に迎えられ、九条会長に会見を申し込むと他の執行部メンバーは席を外し、歴代生徒会長が座る窓際の席を譲られた。