第4章 会合-22
そう言う心当たりが思いっきり目の前にいるので、あたしは思わず息をのんだ。ひょっとして、これってしおりんの罠?あたしたちが売春組織のことを嗅ぎつけたのを知って、こんな人目につかない所で秘密をばらして‥
「お断りしておきますが、私はこの件に関与していませんわよ」
‥げっ、読まれた!?
「そんな顔してれば、誰だってわかります」
あたしが何も言わないうちに、しおりんは嘆息して、さもつまらなさそうに言ってのける。
「で、でも、おかしいじゃないですか!だって有力者の跡取りが狙われるんでしたら、しぉ‥、じゃない、綾小路先輩は真っ先に狙われるはずですよ」
「そこが私にもわからない点です。ですから、私は綾小路家に黒幕がいる可能性も疑っています」
「そんなの信用できません!」
「では論理的に否定します。仮に私の目的が貴方がたを捕えることでしたら、このような非能率的な手段は用いません。こちらが情報を提供する前に、人気のない所に呼び出して拉致すれば済む話です。貴方は呼び出された先が医務室だとして疑いを持ちましたか?」
「それはあたし達がどこまで知ってるかを探るためじゃあ‥」
「もし貴方がたを学院に従順な存在にできるなら、それも必要ありませんね」
う〜ん、まぁ、言われてみればその通りなんだけど、な〜んかしっくりこないなぁ。それにしても、高校生の口から拉致って言葉がすらっと出てくると怖いものがあるわね。って言うか、この人なら本当にやりかねない。
「じゃあ、その風邪をひいた生徒って、どうやって調べたんですか。これって生徒会しか見れない情報ですよね?」
「その通りです。これは生徒会のホームページを不正に閲覧した結果です」
不正と言う割にはあまりにも堂々としてるので、あたしはちょっと面喰ってしまった。清廉潔白なイメージがあったけど、やっぱりこの人、政財界の黒幕の孫娘だわ。
「沙羅、綾小路先輩は敵じゃないよ。あんただって本当はわかってるでしょ?」
すっかり毒気を抜かれてしまった瀬里奈は、あたしの気も知らずにしおりんの肩を持つ。でも、確かにこれ以上疑うには無理があるかな。
「疑いが晴れたようでしたら、今度は貴方がたの情報をお話しください」
先に手の内を明かされた以上、応じないわけにはいかない。あたしは喉をごくっと鳴らし、交換条件に応じるべく、売春倶楽部について知り得た経緯を話し始めた。
改めて見るとなかなかの美人だ。大河内家と言えば、蒼月流だったか、確か華道の名家だ。なるほどお嬢様として育てられてきたのだろう。端正な顔立ちはお淑やかそうな雰囲気を湛え、あどけない笑みは無垢な可愛らしさを残している。彼女は尊敬と恍惚とが入り混じった目で俺を見上げるが、それは『教育』を受けた者特有の見慣れた表情だった。