第4章 会合-18
「別にどうもしません、私はただ真実が知りたいだけです」
改めて私は彼女の真剣な眼差しを受け止める。ひたむきな瞳には、己が運命と向き合う覚悟が窺える。私生児として育てられた彼女がどのような苦悩を抱えてきたかを知る術はないが、これからの人生を望むにあたり、真実を知ることは重要なのでしょう。
「いいでしょう。結論から言いますと、貴方の推察通りです」
その言葉に藤堂瀬里奈は息を呑み、橘沙羅は驚きの表情を向ける。話すべきではないかもしれないが、彼女には真実を知る権利があるわ。お祖父様からの受け売りになるけど、知りたいことくらいは教えてあげられる。
「アジア諸国、特に中国と深いパイプを持つ藤堂議員が大臣に抜擢されたのは、今政権で重要な役割を担うことが期待されてのことです。故にあのスキャンダルは意図的なリークでなく、本当の情報漏洩だと伺っています。しかし彼の政治家としてのイメージを損なわせないため、マスコミ関係に手をまわしたのは、お察しの通り当家の情報操作によるものです」
覚悟はしていても、やはりショックだったのか。彼女の表情は強張ったままだ。
「認知に関しては、もみ消しを図るのが困難な段階であった為、こちらの作成したシナリオの一環として議員に提案したことです。当初議員は渋りましたが、政党内での地位を確約することで応じたと聞いています。貴方が知りたかったのはこのことではありませんか?」
呆然と聞いていた藤堂瀬里奈は、がっくり肩を落とし俯いてしまう。
「あいつやっぱり私のこと、娘じゃなく、女として見てたのね‥」
力なく呟く言葉にはどのような思いが込められているのか。うなだれていた彼女は、やがて重いため息を吐いて顔を起こす。そこにはさっぱりした表情が浮かんでいた。
「ありがとうございます、これで一つすっきりしました」
顔色を見るまでもなく、無理して微笑んでいるのは明らかだった。はたして真実を知ることが、彼女の今後の人生にどう影響するかはわからない。ただ藤堂議員の件は綾小路家にとって政治戦略の一決定に過ぎないが、その決断の裏に、彼女の様な人間が生まれることを常に忘れてはならないのでしょう。
「ごめん沙羅、こんな時に‥って、わっ!」
話の腰を折ったことを詫びようとしたのか、振り向いた彼女を、橘沙羅が抱きしめたのはその時だった。思わぬ出来事だったようで、彼女は戸惑ったような反応を示す。
「さ、沙羅、ちょっと、どうしたのよ!?」
「‥‥馬鹿」
「えっ?」
「どうしてそう言うのを一人で抱え込むのよ、あたし達親友でしょ、ちゃんと相談してよ!」
「だって、これは私の問題だし、あんた達に迷惑かけちゃ‥」
「だから馬鹿って言ってんの!何で一人で苦しむのよ‥愚痴とかこぼせばいいじゃない‥あたしにも力にならせてよ!」
涙交じりに怒鳴る橘沙羅を、私は羨ましい思いで見つめていた。どうやら先程の心配は杞憂に終わりそうね。こんなに素晴らしい友達がついているのなら、きっと彼女は大丈夫でしょう。