第4章 会合-17
「そ、それは‥、話を聞いてみないことには約束できません」
「あら、じゃあ、こう言った方がいいかしら」
ちょっと芝居がかって、肩にかかった髪を後ろに流し、緑の瞳をひたと見据える。
「もし記事に載るようなことがあれば、それが報道部最後の記事となりますわよ」
有無を言わせぬ調子で脅しをかけるが、この程度で引き下がる相手でないことはわかっている。むしろ、これは覚悟を決めてもらうための挑発。案の定、切れ長の瞳に挑戦的な輝きが浮かんできた。
「‥わかりました、でも、もしこれが公表せざるを得ない話でしたら、例え報道部最後の記事になろうとも掲載しますからね」
結構、と胸の内で呟き、承諾の代わりに手にしたカップを下ろす。前置きはこのくらいで十分ね。
「では率直に用件を言いましょう。貴方がたもお気付きのように、この学院には何らかの秘密が潜んでます。しかし、真相を究明するためには情報不足が否めません、そこでお互いの情報交換を提案致します」
たちまち橘沙羅の顔に喜色が広がり、彼女がこの提案に乗り気であることが窺える。が、同時に私は一抹の不安を覚える。
彼女の様な人種にとって、好奇心は何よりの原動力。時にはそれが、不可能をも可能にする行動力を生み出す。しかし歯止めが利かなくなれば、それは猫をも殺す危険ともなりうる。この子はその一線を見極めて行動することができるかしら。
「それは正直こちらも願ったりの話です。でも綾小路先輩、これだけは確認させてください。昼休み、売春倶楽部に関して言ったことは本当ですね?」
「綾小路家の名誉にかけて、嘘偽りないことを誓いますわ」
私の心配をよそに、彼女は好奇心を抑えきれない様子。問題があるとすれば、さっきから思いつめた顔をしている藤堂瀬里奈の方かしら。私の視線に気づいた彼女は、躊躇いがちにもこちらを見つめ返してくる。
「貴方もいいかしら、藤堂さん?」
「‥その前に一つ、どうしてもお聞きしたいことがあります」
意を決したような物言いに、私は何を言うかが予想できた。それにしても昼休みの時と言い、どうも彼女達は上手く連携が取れてないらしい。テーブルの下では橘沙羅が藤堂瀬里奈を小突いてるようだが、彼女は動じた様子もなく、重々しく口を開く。
「私が藤堂家に認知されたのは、綾小路家の政略によるものですか?」
「えぇっ!?」
素っ頓狂な声を上げたのは橘沙羅で、私はやはりと言う思いで聞いていた。これは本来彼女に秘されていたこと。少なくとも、藤堂議員の口からから聞いた話ではないでしょう。しかし、どういう経緯でこの結論に至ったにせよ、彼女は真相に気付いてしまったようね。
「それを聞いて、貴方はどうするつもりなの?」