第4章 会合-14
乱暴に押し開けた扉が、まるで不平を表すかのように軋んだ音を立て、室内にいた女生徒達を振り向かせる。その視線に構うことなく、俺は不機嫌も露わに玉座へ向かい、深々と腰を落とす。
「くそっ!」
悪態を口にするが、ここは我が城。この九条直哉様が治める鳳学院の生徒会執務室だ。誰にはばかることがあろう。
それにしても忌々しい、あの報道部の女共め。せっかく紫織さんの心をつかみかけたと言うのに、あいつらのせいで台無しじゃないか。しかも何故奴らが売春倶楽部のことを知っているんだ?
考えてみれば紫織さんの訪問も腑に落ちない。生徒会の様子を見に来たような素振りだったが、よもや伊集院のくそ女が何か洩らしたんじゃあるまいな。
イライラした気分のまま玉座の肘掛けをコツコツ叩き、時計に目をやると、時刻は午後四時を回ったところだった。
バルコニーに面したテラス窓から初秋の日差しが射し込み、室内を明るく照らし出す。鳳学院生徒会室の豪奢さは、その辺の学校の比ではない。明治以降、いち早く海外文化を取り入れた学院ゆえ、内装こそ洋風であるが、実用性重視の家具、調度品は、国産の最高級品で揃えられている。唯一の例外と言えるのが応接セットで、こちらは何代か前の生徒会長の寄付で、イタリア製のソファと妙な形のローテーブルが置かれている。
だが中でも気に入ってるのは、代々受け継がれてきた会長席でも、座り心地の良いソファでもなく、この玉座と呼ぶ椅子である。名工の手により意匠を施された年代物で、鳳学院の支配者たる者が下僕を傅かせるには、この椅子こそふさわしい。
「おい、伊集院!」
呼びかけに応じ、飲み物の用意をしていた女生徒が直ちに馳せ参じる。膝を揃え両手をつき、絨毯に顔をこすらんばかりに深々と首を垂れ、俺の足音に跪く。
「お呼びでございましょうか、直哉様」
数日前まで居丈高に振舞っていた高慢ちきな女は、今や従順な下僕。恭順の意を表する伊集院を、冷ややかに見下した。
「お前、紫織さんの前で何か不自然なことをしてないだろうな。学院では平常通りに振るまえと命じたはずだぞ?」
「はい、お言いつけどおり、校内ではいつもと変わらぬよう過ごしております。紫織様とは月曜日に偶然お会いして、お話し致しました」
「ふん、‥何を話したんだ?」
「着物と園遊会の話を少々。あと、恐れ多くも直哉様と諍いを起こしたことに対し、お咎めを頂きました」
「何だと、それで何と答えたんだ?」