第4章 会合-13
社交的な笑みで感情を隠すことなく、私は藤堂瀬里奈の視線を真っ向から受け止める。
「もしそのようないかがわしい倶楽部があるとすれば、綾小路紫織の名において、断じて許すつもりはありません」
静かな声で断言したのは、彼女だけでなく、九条会長への宣告でもあるから。はたして私の意図は伝わったのか、藤堂瀬里奈は視線を逸らし、短くわかりました、と答える。ちょうど、昼休みが終わる五分前の予鈴が鳴り響いた。
「とにかく、そのような噂を面白半分に広められては、生徒会としても黙っていられません。根拠のない噂で学院の名誉を汚す行為は、停学の対象となりますよ」
瀬里奈のおかげですっかり機嫌を害した九条会長は、憎々しげな視線でこちらを睨み、半ば脅しともとれる忠告をかけてくる。ふんっ、あたし達がそのくらいでビビるとでも思ってんの!
「あっ、もう時間のようですね。それじゃインタビューはここまでとさせて頂きます。ご協力ありがとうございました〜」
内心ムカついてたあたしはその忠告を無視して、精一杯の愛想笑いを浮かべ、一方的にインタビューの終了を宣言する。ちょうど食堂に残っていた生徒達が教室へ移動し始めたので、辺りの騒がしさが増してくる。いち早く席を立ったしおりんが傍らを抜け食堂を出ていくと、あたしも瀬里奈を引っ張るようにVIP席を後にする。
食堂を離れ、他の生徒達に紛れて教室に戻る途中、あたしは小声で瀬里奈に文句をつけた。
「も〜、冷や冷やさせないでよ。一体どういうつもり!」
「悪かったわよ、でもあいつらの本音を引き出す役には立ったでしょ」
「やり方ってもんがあるでしょ〜が!あんなインタビューじゃ次から何も答えてもらえないわよ」
まったく、瀬里奈が九条会長を怒鳴りつけた時には本当に驚いたわ。まぁ、ざまあみろとも思ったけどね。でも、あの執念深そうな目を思い出すと、ちょっと怖気を覚える。
「だから悪かったって、謝るわよ。それで、沙羅はどう思う?」
「うん、綾小路先輩は違うと思う。絶対じゃないけど自信はあるわ。でも九条会長は、ど〜考えても怪しいわね」
「同感。で、次はどうするつもり?」
「それがね、さっき先方からお誘いがあったのよ」
先程しおりんがあたしの横を通り抜けるとき、小声で放課後、喫茶店に、と囁いていったのだ。あたしの見たところ、しおりんも何か九条会長を探っていたようだし、彼の怪しい反応にも気付いてるはずだ。もし彼女が本当にこの件と関係ないのなら、協力が得られるかもしれない。
事情を説明すると、瀬里奈は何か複雑な表情を見せるが、あたしの気持ちはすでに放課後に向かっていた。このまま行くと売春組織の実態を暴くには、生徒会との対立は避けて通れそうにない。でも、上手くしおりんを味方にできればこちらの切り札となるはずだ。
ひょっとしたら、しおりんこそがパンドラの箱に残された希望なのかも。あたしはそんなことを考えながら、放課後を待つことにした。