第4章 会合-11
それにしても一時の気の迷いとは言え、このような輩に心乱されるとは不覚も甚だしい。私もまだまだ精神修養が足りないと言うことかしら。くしくも報道部のインタビューに助けられる形となったが、彼女達の行動にも不審な点が多い。
「そうですか〜?でも鳳学院裏事情で話題になってましたよ」
彼女も愛想笑いを浮かべて応じているが、目は真剣そのもの。確かに一時、学校の裏サイトに売春倶楽部の噂が立ったことは記憶にある。内容が内容だけに当時生徒会でも調査に入り、投稿者を特定し取り調べを行ったが、結果全く事実無根のジョークであることが判明した。その犯人が現生徒会で庶務を務める南雲隆介であることは、九条会長も承知のことだろう。
なるほど、噂の出所が知れれば、現生徒会のイメージダウンにつながりかねない。秘密にしたいのは頷ける。だがそれにしても、彼の誤魔化し方は不自然だ。まるで噂そのものの存在を否定しているようで、その意図がわからない。
意図が分からないという点では報道部も同様。特集記事とは建前で、どうもこの噂について調べに来た節がある。よもやこの鳳学院に売春倶楽部なるものが本気であるとは思ってないでしょうけど、それなら彼女達の目的は何かしら。
エメラルドを思わせる緑の瞳で、九条会長の心を見透かそうとする金髪の美しい下級生を、私は注意深く観察した。
報道部の活動は、同好会発足当時から注目を集めていた。もともと学内のゴシップを扱うと言う興味本位な活動だけに、学院側は発足に難色を示したが「実社会に出れば、世間の好奇の目にさらされる立場の者が多い学院で、社会勉強の一環として活動を認めてほしい」との強引な理屈が通り、承認されたものである。
トラブルの元となることが懸念されたが、報道部が学内ネットに配信する記事は、生徒達の間で人気が高かった。情報管制に厳しい閉鎖的な学院内で、娯楽として脚光を浴びたのである。
実際彼女達の記事は、報道関係に精通している綾小路家の目から見てもレベルが高い。ネット記事の特性を生かした写真や動画の掲載に、読者の興味を惹きつける文章。何より不快感を残さない書き方が素晴らしい。まだまだ荒削りな部分はあるものの、将来性を十分に感じさせるものがある。特に今期生徒会選挙における、候補者への直撃インタビューを扱った記事は、内心舌を巻く思いで見たものだ。
その記事の原動力となっているのが、フランス人とのハーフである、橘沙羅のインタビュー活動。可愛いらしくフレンドリーな態度と欧米人の美しい容姿から、彼女は二年生のみならず、三年生の間でも人気が高かった。プライベートなことを根掘り葉掘り聞かれるにもかかわらず、彼女の取材活動を心待ちにしている男子生徒も多いと聞くが、それも誇張ではないでしょう。
くわえて彼女は読心術を心得ているらしく、相手の動作や行動から巧みに意図を見抜いてくる。もっとも、私に言わせればこちらの方はまだまだで、相手の目の反応で真偽を確かめているようでは、ベテランの社交家の意図を読み取るには及ばない。だがジャーナリストとしての彼女の腕は軽視すべからざるものがあり、気の抜ける相手ではなかった。