第3章 調査-7
ちっとも誠意のこもってない感謝の言葉を聞きながら、あたしは内心焦りを覚え始めた。この場合考えられるのは、インテリ眼鏡があたしの洞察力でも気付かないほどうまく感情を隠しているか、もしくは本当に無関係かだ。当の彼女は受け取ったDVDを無造作に置くと、あたしのことなど眼中にないかのようパソコンに目を戻す。
参ったな、どうしよう。予想外の反応に次の手を考えあぐねていると、注文した珈琲が運ばれてくる。どうしようかと悩みつつ、シュガーポットから砂糖をすくって一杯、二杯、三杯‥
「‥貴方、一体何杯入れるつもりなの?」
意外なほど感情のこもった声が、あたしの手を停めさせた。見ればインテリ眼鏡が呆れ顔でこちらを見ていた。
「あたしいつも五杯入れてるけど?」
「そんなに入れたら、珈琲の味なんてわからないでしょ!」
「え〜、だってこれくらい入れないと苦いじゃん」
「呆れたわね、そもそも珈琲はまずブラックで苦みを味わってから、適切な甘さになるよう砂糖で‥」
皆まで聞かず、あたしは吹き出してしまった。まるでさっきのムーチョみたいな言い方。間違いない、きっと彼女も珈琲好きだわ。
ケラケラ笑いを続けるあたしを憮然と見ていたインテリ眼鏡だが、ついに彼女も苦笑いを浮かべる。その瞬間にぴんときた。彼女は感情に乏しいのではなく、きっと表に出さないようしているだけなのだ。時々感情表現の下手な子は人を拒絶するように振舞うことがあるが、彼女もそのタイプじゃないかな。
気分がほぐれたのか、インテリ眼鏡は作業の手を止めると、苦さを確かめるかのように自分の珈琲を啜る。
「それで、貴方この中身は見たの?」
先に渡したDVDを手に、彼女は何でもないような口調で言うが、あたしは一瞬にして冷水を浴びせられたような気分に陥る。そうだ、笑ってる場合じゃない。
だが、これこそ待ちに待った質問だった。もしインテリ眼鏡が売春組織の仲間なら、当然あたしがDVDを見たかの確認をとってくるだろう。今ちょっと感じた親しみの感情を抑え、用意していた返事をする。
「えへへ、実はちょっとだけ見ようかな〜って思ったんだけど、プロテクトがかかっててさ。ねぇ、これって何が入ってるの?」
この返答で、彼女が売春組織の仲間かを見極めるつもりだった。内心違っていてほしいと思いつつも、彼女の眼や表情に妥協のない注意を向ける。
「‥またプロテクト?」
これまた予期せぬ答えだった。だが、僅かに眉をひそめ、ちょっとイライラした口調、目にはかすかに戸惑いの色が浮かんでいる。
「あれっ、もしかして桐生さんのじゃなかった?」
「いいえ、生徒会のものには違いありません。まぁ、いつの生徒会のかは不明ですが‥」