第3章 調査-6
なるべくにこやかな愛想笑いを浮かべ、声をかける。はたしてパソコンから顔を上げた彼女は驚いた風もなく、いつもの冷めた表情で用件を尋ねてくる。でも、いきなり本題に入ったりはしないんだな。
「へ〜、桐生さんって、いつもここでお昼食べてたんだ、景色いいわね〜」
外の景色を見るふりして、ちらっとパソコンに目を走らせる。何とか会議議事録ってタイトルが見えたけど、残念、どうやら生徒会の仕事みたい。
「いつも一人?食堂でご飯食べないの?」
勝手に向かいの席に座り、矢継ぎ早に質問を浴びせる。怒らせるのでもなんでもいいから、とにかく相手にしゃべらせて、感情的にさせるのが本音を聞き出すときのコツだ。
「ここはパソコンで作業できますから。それに人の多いところは苦手なの」
私の問いかけに相変わらず感情のこもらない返事が返ってくるが、少し煩わしそうな気配を感じる。この調子でもう少ししゃべらせようと思ったけど、断ち切る様な口調があたしの言葉を遮った。
「それで、ご用件はなんです?」
ちょうどその時、ナイスタイミングでウェイターのお兄さんが注文を取りに来たので、メニューに悩むふりして時間稼ぎ。少しイライラが募ってきたかなってところで、あたしはようやく本題を切り出した。
「実はこれなんだけど‥」
不安そうな表情を作り、おずおずとDVDを差し出すが、あたしは油断なくその顔色を窺っていた。
ジャーナリストを目指すあたしの特技は、相手の感情を読み取ること。それは目の動きや表情の変化、雰囲気などから、相手がどんな気持ちを抱いてるかを見極める能力。さすがに超能力みたいに何を考えてるかまでは分からないけど、嘘を見抜くのには自信がある。
あたしが今渡したのは問題のDVD、原本である。いつまでもこれを手元に残しておくのは危険だし、もちろんコピーはとってある。インテリ眼鏡が売春組織に加担してるなら、DVDを返すことで何らかの反応を示すはず。わざわざ教室ではなくこんな所を受け渡し場所に選んだのは、適度にプライバシーが守られ、かつ人目のあるところだからだ。後は彼女の反応次第で、どんな些細な変化も見逃さないよう注意を払いつつ、相手の出方を待つ。
「何です、これは?」
‥あれ?まるで心当たりのないものを見るような目つきに仕草。とぼけてるようには見えないけど、もしかして紛失に気づいてなかったのかな。
「ほら、昨日ぶつかった時、あたしのバッグに紛れちゃったみたいなの。それで返しに来たんだけど‥」
あたしの説明に納得したような表情。目の動きに動揺は見られないし、緊張した雰囲気もない。
‥って、おかしいな、これじゃ普通の反応じゃない。
「わかりました、わざわざありがとう」
‥えっ、え〜、それだけ!?