第3章 調査-3
やっぱりおかしい、もし先輩が内緒で売春をやってるのだとしたら、こんなことを言うだろうか。
だが昨日の取り決めで、あのDVDは秘密にすることになっている。万が一にも沙羅と紫苑を危険な目に会わせるわけにはいかない。
「すいません、ビデオはありません。でも私が見たのは確かに先輩でした」
堂々巡りが続くと思ったのか、先輩はお手上げのジェスチャーをすると、会話を打ち切るように宣告する。
「あのね、藤堂が何を見たのか知らないけど、保証するわ。私はエッチなビデオなんかに出たことはないし、これから出ることもない。もしこの話を続けたいなら、今度はそのビデオを持ってきて。もう、このくらいでいいかな?」
「‥わかりました」
答えはしたものの、私は何もわかっていなかった。先輩は嘘をついてない。でも、ビデオに出ていたのは間違いなく先輩だった。この二つの事実が相反することはわかっているが、どうにも説明をつけることができない。
「まぁ、家のこととか色々大変だと思うけどさ、あんまりおかしなこと言い出すのはやめてよね。これ、私じゃなかったら、激怒もんだよ」
そう言って私の頬を冗談っぽく叩いて背を向け、次はテニス部の入部届けを持ってきてね、と言い残し階下へ去っていった。
私はただ呆然と、その後ろ姿を見送ることしかできなかった。
「加賀美さん、少しよろしいかしら?」
昼休み、図書室で本を読んでいた女生徒は、顔をあげて私を見るや、ポカンとした表情を浮かべる。
「あ、綾小路先輩!?‥わ、わわ、私に何かご用ですか、いえ、ございますですか‥」
随分と面白い日本語ね。冗談のつもりなら笑ってあげるけど、露骨に狼狽えた様子には不安の色がありありだった。それにしても、綾小路の名に委縮するのは彼女に限った事でもないが、まったく、私を一体何だと思っているのかしら。
内心の感情を表には出さず、相手を安心させるつもりで、親しみを感じさせるような笑顔を作ってみせる。
「図書館では良くお見かけするけど、お話するのは初めてね。こちら座っても?」
「どどど、どうぞ」
幾分不安の色は消えたけど、緊張は変わらず。これではまともに話ができるか怪しいわね。単刀直入に用件を切り出すとしましょう。
「貴方、伊集院薫とは同じ寮ですわね」
「へっ!?‥あっ、はい、伊集院さんとは同じ寮でございますです」
「先週の金曜日だけど、彼女、何か変わった様子はなかったかしら?」