第3章 調査-2
「‥見たんです私、先輩の‥ビデオを‥」
「何の?」
「何のって‥」
この期に及んでとぼける気だろうか。私は責めるように初めて先輩と目を合わせる。でも、当惑を覚えたのは私の方だった。きょとんとした顔の先輩は、本当に何の事だかわからない様子だった。
「あ〜、もしかして、今年のインターハイ予選のビデオかな。惜敗とは言え、あれはちょっと不甲斐なかったかなぁ‥」
「そんなんじゃありません!」
私の大声に、先輩の顔から笑みが消える。胸が痛んだが、もう後には引けない。
「‥ごめん、ちょっと心当たりがないわ、何かあんたの気に障るようなものでも映ってた?」
「私が見たのは‥‥その‥、‥先輩がエッチなことしてるビデオです」
空気が凍りついた。間の悪い沈黙が訪れるが、ここまではっきり言えば、もうとぼけることもあるまい。はたして先輩はどう反応するだろう。狼狽するだろうか、それとも開き直るだろうか。だが、実際の反応は私の思いもしないものだった。彼女は突然吹き出すや、お腹を押さえて笑い始めた。
「あ〜はっはっはっ、おっかし〜、まさか深山の口から、そんな冗談が飛び出すとは思わなかったわ」
「冗談なんかじゃ!私本当に見たんです、先輩こそとぼける気ですか!」
「はいはい、あ〜おかし、あんまりマジな顔するもんだから、ちょっとびびっちゃったじゃない」
「先輩!」
おかしい、先輩は本当にとぼけているのだろうか。私には本当におかしくて笑ってるように見える。
ひとしきり笑い転げると、ようやく先輩は息を整え、深刻な顔をしたままの私に目を向ける。
「ねっ、まさかマジで言ってるわけじゃないよね?」
無言の否定に、先輩は笑いを収める。だが、やれやれと言った感じが拭えない。
「あのね〜、ちょっと考えてみてよ、私がそんなことすると本気で思う?誰かの悪戯でしょ」
「違います、本当にそうだったら良かったんですけど‥」
「じゃ、似てる人だ。私に似たAV女優さんとか?」
「それも違います、大体私が先輩を見間違えるはずありません」
「そうは言っても、そんなやましいビデオに出た覚えはないわよ。ヒロ君ともうまく行ってるんだし」
話しているうちに私はどんどん自信がなくなってきた。およそ先輩ほど嘘が下手な人はいない。裏表のない性格で、仮に嘘をついたとしてもすぐ顔に出る人だ。だから直接会って話をすれば、本当のことが分かると思っていた。ところが、今話している先輩は、とぼけてるのでも嘘を隠してるのでもなく、本当に心当たりがないという反応だ。
「一体、みや‥、あっ、違った、藤堂、あんた何を見たわけ?そのビデオって手元にあるなら私にも見せてよ」