第3章 調査-11
苦々しく言うあたしに、瀬里奈は罰の悪そうな顔をする。そう、トリクシスは父の会社。あたしは子供の頃からトリクシスの製品を手に育ってきたのだ。だから、こんな悪事にうちの製品使う奴がいたかと思うと、ますます腹が立ってくる。
「あのビデオの撮影も素人くさかったからね〜、要するに、金持ちの素人が持ってそうなビデオってことよ」
更に言えば、学院の生徒が持ってそうでもあるわね。もっともこれは確証のない推測だけど。
「それと、もう一つわかったことがあります。こちらを見てください」
そう言って紫苑はパソコン前にあたしたちを集め、一時停止していた画像を再開する。画面が動き出すと、ピンクのシーツの上で先輩が一心不乱に腰を揺すり始める。ビデオの後半、オナニーに耽り、今にも絶頂を迎えようとする辺りらしい。
音声は絞ってあるが、喘ぎ声を上げながら夢中で行為に没頭する姿は、改めて見ても顔が赤らんでくる。絶頂に大きく身を震わせた瞬間、画像を止め、ここです、と指を差す。
「‥ちょっと紫苑、あんた私を怒らせたいの」
「違います、この部分を見てください」
瀬里奈が険しい顔をするのも無理ないが、彼女が指してるのは画面の右上、どこだか知らない部屋の天井と壁の境目辺りだった。
それまでベッドの上ばかりを撮っていたビデオが、この時だけぶれて、天井近くを写している。あまり深く考えたくないが、おそらく撮影者が興奮して、ビデオを揺らしたのだろう。
「これが何なの?」
「わかりませんか、換気ダクトです」
言われてみれば、天井に金属メッシュのかかった穴が開いている。普通に観ていたらまず気付かない、一瞬の画像だ。
「調べて見たのですが、換気ダクトは設置場所や用途によって形が違うようです。ただ、このダクトはかなり古いタイプで、これが使われてる建築物は‥」
「まさか、学院なの!?」
紫苑は黙って頷いた。
「さっすが紫苑、やっぱりあんたはすごいわ」
かけ値なしの感嘆に、ようやく彼女は笑みを浮かべる。
「待ちなよ、じゃあ、これは学院のどこかで撮られたってこと?」
「そうなるわね、でも、おかげで大分絞り込むことができたわ」
少し先が見えてきたことで、あたしは気持ちが昂ぶってきた。
「わかってることから整理しましょ。まず、このビデオが撮影されたのは去年の夏頃。学院内で撮られたのなら、売春組織は内部の人間と見ていいわね。ここのセキュリティは半端ないから、外部の人間が潜入したという考えは除外してもいいと思う。そうなると撮影者はここ二年以内、学院に在籍していた者と考えるのが妥当だわ」
あたしの考えに二人は頷く。ここまでは状況から見て間違いないだろう。