キス-4
「どうした、龍」
ベッドの端に腰を下ろして腕時計を外していたミカが、窓際に立った龍に訊いた。龍は川に面した窓を開けて、じっと対岸の様子を見ていた。
「父さんと真雪が熱いキスシーンを繰り広げてるよ」
「マジか?」ミカも立ち上がり、龍の横に立った。「ほんとだ。まあ、臆面もなく、あんな往来で……」
「なんか、父さん焦ってるように見えるんだけど……」
「あれは……、」ミカが言った。「焦っているというより、真雪を守りたい、って強烈に思ってるような気がするな」
「守りたい?」龍はミカの顔を見た。「何を今さら……」
「あの腕の回し方と力の込め具合……」そしてミカも龍の顔を見た。「真雪は例の夜、ああやって板東にいきなりキスされたんだろ?」
「うん。そう言ってた」
「真雪がそれを許した、ってことがケンジには我慢できない、ってとこかな」
「俺も我慢できない。その時真雪があいつに唇を許したっていう事実は、本当に今でも痛みを感じるよ。それさえなければ、あんな大事にはならなかっただろうから……。だから、それを思うたびに俺もああして、真雪に乱暴にキスしちまう」
「無理もないな」
「でも、」龍は再び川向こうの『恋人たち』に目を向けた。「あれを見ると、俺自身、とっても安心できる。というか癒される」
「そうなのか? 普通嫉妬するだろ。あんなの見たら。真雪はおまえの妻だぞ」
「真雪がとっても癒されてる感じがするもん。きっと板東のキスを忘れさせてくれてるんだよ、父さん」
ミカももう一度対岸で抱き合っているケンジと真雪を見た。「なるほど。そうかもな」
「さすがだよ。父さん……」