〈終着点〉-5
『今度は私の家畜を運んじゃってよ』
「このッ…!!やめ……う……」
「お…姉さ……ん……!!」
景子までも眠らされ、部屋から運ばれていくと、優愛も奈和も静香も声すら出せなくなった……サロトの圧倒的な強さにも度肝を抜かれていたし、刑事である二人が無力化されたのだから。
『さ、サロトさん……この娘はどうですか?』
専務は恐る恐るサロトに奈和の存在を教えた。
さっきの失態を怒っているかも知れない……その頬の傷は、専務が油断したからに他ならず、春奈への怒りの感情が、自分に向くのは充分に考えられたからだ。
『……むう、これは…?』
檻の中で怯えきった奈和を視認すると、サロトの顔から強張りが消え、また何時ものサロトに戻っていた。
『コイツは夏帆か?……いやいや、真希の方に似ておるかな?』
「キャッ…あ…ああ……」
サロトは檻の前にしゃがむと、檻の中に手を入れて前髪を掴み、ジロジロと眺め回した。
明るい栗毛色の髪は夏帆や真希とは違うが、顔に比して大きな瞳や、通った鼻筋は真希と良く似ていたし、専務も感じたある種の“暗さ”は、夏帆の独特の雰囲気に酷似していた。
『グフ…グフフフ……ワシはコイツも気に入ったわい……ワシのペットにしてやろう』
『あ…ありがとうございます!!ありがとうございますッ!!』
てっきり睨まれ怒鳴られると怯えていた専務は、サロトの表情と言葉に安堵し、浮かれたように感謝の言葉を繰り返した。
『じゃあ私はコッチの牝を頂くわ。あの牝だけじゃ、直ぐに飽きちゃうからさあ?』
タムルは優愛の檻に飛び乗り、眼下で足掻く様子を眺めた。
『さすがタムルさんは御目が高い。その娘は景子の妹でして、男が嫌いな可哀想な娘なんですよぉ』
『男が嫌い』という言葉に、やはりタムルは反応した。
思い通りに事が運びそうになった専務は、更に景子と優愛の“商品価値”を高める為、その姉妹の悲しい過去をタムルに教えた。
『……ウフ…フフフフ……なんて事なのかしら?……サロトさん、私にもう一部屋貸してくださらない?』
『構わんぞ?さあ、お前ら、早く二人を家畜部屋に運べ』
「むぶッ!!ふ……う……」
「奈和!?あぶぷ………」
空っぽの檻は四つに増え、二本の“簀巻き”が運び出された。
この空間に残されたのは、静香ただ一人だけだ。
サロトもタムルも静香に近付き、しゃがみこんで顔を覗いた。が、その表情に笑みは無かった。