〈終着点〉-3
「起きなさい……起きなさいよ春奈あぁッ!!!」
いよいよ春奈が運ばれていく……景子は涙を溜めながら叫び、女性としての死出の旅路に向かう春奈に最後の願いを訴えた……。
『可愛い寝顔じゃ……ほれ、まるで赤ちゃんのよう……!?』
サロトに抱かれ、毛布まで運ばれていく……そして腕から離れた瞬間、春奈の瞳はカッと見開かれた。
『春…ッ!?ぐおぉ!!!』
(!!!!)
春奈は覆い被さるようにしていたサロトの顔面を、握り会わせた両手で下から殴り付けた。
その硬い拳と手錠はサロトの頬を打ち抜き、褐色の巨体は仰け反るようにひっくり返った。
「……皆を……このまま好きになんてさせないッ!!」
航海の最中、春奈はずっと冷酷な視線に晒され、孤独と自責の念に駆られ続けてきた。
静香が輪姦されて泣き叫ぶ度に、奈和と優愛が強制排泄に狂い泣く度に、景子が哀れんだ視線を送る度に、春奈の心は激しい痛みに襲われ、涙が頬をつたった。
自分の所為で被害は拡大した……ならば、その“けじめ”は自分で取らねばならない……。
あの映像の中には、檻に収められたままの姿は無かった。
つまり、何らかを用いて抵抗を封じ、新たな拘束を施している。というのは解った。
春奈はこの瞬間を待っていた。
勝利を確信し、警戒心も注意力も著しく低下した“今”こそ、最後で最大のチャンスだと。
薬が効いたと思わせ、拘束が解かれる瞬間を、春奈は待っていたのだ。
『……グフフフフ……なんともまあ、お転婆な花嫁じゃて……』
春奈は半身になって身構え、サロトはゆっくりと起き上がって両手を広げて見据えた。
殴られた左の頬には丸い拳の跡と、手錠が当たって切れた赤い線が付いていた。その線からは赤い血が滲み、殴られた屈辱に引き攣る頬をつたった。
『もうサロトさん、そんなに怒っちゃ駄目よぉ。ちょっとビックリして叩いちゃっただけなんだから……ね?』
タムルは気色ばむ春奈をなんとも思っていないのか、ケラケラと笑いながらサロトを小馬鹿にしていた。
『サロト様……こ、殺さないで下さいよ…?』
『そうですよ。勿体無いですよ』
サロトの部下達の狼狽えは、専務達にも伝わっていった……未だ曾嘗て、専務達は怒ったサロトを見た事が無かったのだから無理もない……まさかこんな所で、こんな失態を冒してしまうとは夢にも思わなかった専務は、口を開けて呆然としながら冷や汗を流す以外に無かった……。